岐路に立つ地域交通

―自家用有償旅客運送の拡大ではなく、安心・安全な公共交通の充実を―




2019年7月4日 自交総連



 (1) 成長戦略実行計画等での自家用有償旅客運送拡大方針

  成長戦略実行計画(未来投資会議の答申)と経済財政運営と改革の基本方針2019(経済財政諮問会議の答申、いわゆる「骨太の方針」)が6月21日、閣議決定された。また、規制改革推進会議の答申も6月6日に出され、21日に規制改革実施計画が閣議決定されている。これらの計画・方針では、地域公共交通に大きくかかわる自家用有償旅客運送を拡大する方針が明確にされ、2020年通常国会に道路運送法改定案を提出するとされている。

  自家用有償旅客運送は、バス・タクシーのない交通空白地に限って、二種免許を持たないものが、自家用車で、地域住民を運送する例外的な制度である。この原則をなし崩しにして無限定に拡大することは、公共交通機関に求められる安全性をないがしろにするものであり、さらに、ライドシェア=白タク合法化への突破口として利用する意図をもっているものとして、決して認められない。

  自交総連は、道路運送法改悪を阻止するとともに、地域住民の移動の権利を保障する安全な交通政策の推進をつよく求めるものである。



 (2) 自家用有償旅客運送拡大の内容


  成長戦略実行計画(骨太の方針も同様)では、自家用有償旅客運送について、@交通事業者が協力する自家用有償旅客運送制度の創設、A観光ニーズへの対応のための輸送対象の明確化、B交通空白地の明確化、C広域的な取組の促進――が提起された。

  @交通事業者の協力というのは、この制度改悪にタクシー事業者を取り込む意図をもって挿入されたものである。未来投資会議は、タクシー事業者が直接運営する自家用有償旅客運送を念頭に議論してきたが、国土交通省は、タクシー事業者が自治体、NPOなどから委託を受けたり、ノウハウを提供するのは従来から認められてきたが、直接自分で運営することは認められないとの姿勢を保っている。このため、規制改革推進会議の答申では、タクシー事業者が実施主体となって提供できるように引き続き検討を行うべきとされ、国土交通省へ圧力がかけられている。

  A観光ニーズへの対応は、地域住民のための運送を観光客・来訪者へも広げようというもので、自家用有償旅客運送の趣旨を逸脱するものである。

  B交通空白地の明確化は、「明確化」といいながら、地域だけでなく時季や時間、都市部でも空白地はあり得るなどの議論がされてきた経緯から、交通空白地の解釈を際限なく拡大していくものといえる。

  C広域的な取組の促進は、原則として一市町村の範囲内で認められている自家用有償旅客運送を、市町村域を超えて広範囲で運行できるようにするものである。

  A〜Cを通じて、バス・タクシーのない地域で例外的、限定的に運行されてきた自家用有償旅客運送を、無限定に、誰でも乗せられ、どこでもでき、広範囲で運行できるようにする方向が明白になっている。



 (3) 安心・安全を無視、ライドシェアへの「突破口」とする意図


  道路運送法が、タクシー事業にきびしい規制の枠を課しているのは、乗客の安心・安全を確保し、かつ持続的・安定的に運行が継続でき、責任をもって人の移動を担うことができるようにするためである。タクシーがなく、他に代替手段がない地域について、住民の移動を保障するために、例外的に認められているのが自家用有償旅客運送である。

  自家用有償旅客運送の運転者は、二種免許取得を義務付けられず、一種免許で簡単な講習を受けただけで運転することが可能となる。また、運行を管理する責任者も、バス・タクシーでは必要となる運行管理者の資格(試験合格者)がなくても可能である。運行前の確認(点呼)も対面が義務付けられず電話でもよい。運賃は、営利を目的としないものとしてタクシーの半分程度とされ、運転者は専業ではなく、兼業やボランティアの高齢者が多い。

  例外的な措置ゆえに、安全管理の質がタクシーと比べ格段に緩くなっているのである。こうした自家用有償旅客運送の限定を外し、拡大することは、安心・安全が確保できず、安定性・持続性にも欠けるものといわなければならない。

  しかも、自家用有償旅客運送事業拡大の真の意図は、これをライドシェア解禁への「突破口」として利用することにある。未来投資会議第24回会議(3月7日)で、竹中平蔵議員は、今年1月のダボス会議(世界経済フォーラム年次総会)で、自身と安倍首相がライドシェア大手UberのCEOと昼食会を共にしたことを誇らしげに語り、日本では既得権益者の猛烈な反対でライドシェアによる成長機会を逃してきたと言及した。そして、自家用有償旅客運送制度の改善は、「突破口として非常に重要なポイントになる」と、その意図をあけすけに述べている。

  こうした動機で、自家用有償旅客運送制度を利用することは許されず、ライドシェアへの「突破口」とすることを断固、阻止しなければならない。



 (4) タクシー・バスを活用した地域交通に補助金の増額を


 自家用有償旅客運送の拡大は、地方の交通不便な地域での住民の移動を助けるということを理由としている。

  確かに、地方における交通問題は年々深刻さを増し、タクシー会社も撤退して、交通空白地となる地域が広がっている。高齢者の交通事故増加で運転免許返納が奨励されていることからも、対策が切望されている課題である。しかし、この解決を自家用有償旅客運送、あるいはその延長線上に想定されているライドシェアに委ねようとすることは、交通機関にとって最大の使命である安心・安全を損ねるもので、持続的・安定的な輸送にもならない。

  地方で住民の移動を確保するためには、公共交通機関であるタクシーの活用拡大こそが必要である。地方自治体と提携した過疎地型の乗合タクシーは、全都道府県で3381コース(2018年3月31日現在)が運行されている。こうしたとりくみを拡大し、全国の交通空白地をカバーできるようにすることが求められている。

  タクシー事業者は公共交通を担う公器としての自覚を持ち、持続的な事業運営に工夫・努力するとともに、地方自治体と協力して総合的なまちづくりの計画を立てていくことが必要であり、労働組合も積極的に協力していく。

 公共交通の維持のためには補助金の大幅な増額が不可欠である。現在、「地域公共交通確保維持改善事業」で220億円(2019年度当初予算)が支出されているが、これはバス路線維持や離島航路への補助などの総額で、乗合タクシーへの支出はその1割程度しかない。総額も乗合タクシーへの補助も抜本的に拡大すれば、交通空白地でもタクシー事業者が乗合タクシーを運行することができる。安全な公共交通の維持には一定のコストがかかることについて、自治体・利用者にも理解を得なければならない。

 自交総連は、地域住民の移動を確保し、安心・安全な公共交通であるバス・タクシーの活用をすすめ、それに見合う補助金を抜本的に拡大することを政府・国土交通省につよく求めていくものである。

以  上



自 交 総 連