自交労働者No.975、2023年9月15日


急ぐべきは職場環境の改善だ

ライドシェア解禁論が活発化

 菅義偉前首相は8月19日、外国人観光客誘致や地方創生をテーマにした講演会(長野市内開催)で、白タク=ライドシェアの解禁について発言しました。
 対談の場で、「インバウンドの回復によって空港などでタクシーを待つ訪日客の行列ができている。その対策として、ライドシェアに肯定的か」と問われると、菅氏は「私はそう思っている。党内にも色々な意見があるがこれだけ人手不足になってきたら、そうした方向も必要かと思う。議論していきたい」と解禁への意欲を示しました。

危険性を利用者へ知らせる

 この菅氏の発言を呼び水として、国内の規制緩和推進論者が動きをみせています。
 河野太郎デジタル大臣は8月29日に、ライドシェアの解禁を含む交通・物流サービスのデジタル化を議論するワーキンググループを庁内に立ち上げたと明かし、ライドシェアを導入するルール作りに積極的な姿勢を示しています。一方、自民党のハイタク議連からは反対が続出するなど慎重論も出ています。
 9月6日には、NHKが夕方のニュースで、「福岡市が一定の条件を満たせば一種免許でタクシー乗務を可能とする特区申請を行う方向で調整を進めている」と報道。のちに事実誤認だったと訂正されましたが、こうした規制緩和の動きは、あたかも地域公共交通の不便への解決策のようにマスコミ各社で連日報じられています。
 JNNが9月3日に発表した世論調査結果では、自家用車ライドシェアの解禁に反対と回答した人が全体の55%を占めたことが明らかになりました。これまでの自交総連の運動もあり、世論は反対派が多くなっています。  劣勢を覆そうとしているのか、規制緩和推進論者は危険性を隠して、あの手この手でアピールをしています。
 自交総連は、労使や団体の垣根を越えて、安心・安全で持続可能な地域公共交通を破壊するものとしてライドシェアの危険性を利用者へ知らせる運動を展開していきます。

黒岩知事の提案に断固抗議

 また8月29日には、神奈川県の黒岩祐治知事が定例の記者会見で、「人口減少や人手不足が進む中、地域公共交通はどうあるべきか。課題も踏まえ、業界全体の話も聞きながら幅広く検討したい」と発言し、「ライドシェアの実現性について庁内で検討するよう指示した」と述べました。
 二種免許は道路交通法で規定されており、黒岩知事の提案は法律を無視した暴挙です。
 今すべきことはライドシェア解禁ではありません。行政として国やタクシー協会等と共同して、安心・安全で持続可能な地域公共交通としてのタクシーを守る交通政策を進め、補助金等の財政措置にとりくむことです。
 自交総連は黒岩知事に対して、断固として抗議します。


規制緩和の拡大ではなく
社会的水準の労働条件の整備を

自交総連 石垣敦副委員長

 菅義偉前首相が、タクシードライバー不足を口実として、ライドシェア導入への前向きな党内議論に言及したことで、推進派が勢いづいています。
 そもそもタクシー労働者の高齢化や減少を招いたのは、2002年のタクシー規制緩和で需給調整や運賃改定を撤廃したことによって労働条件が悪化したことに加えて、この間のコロナ禍が拍車をかけたことです。
 いわば規制緩和が今日のタクシー問題の根幹であり、それを究極の規制緩和であるライドシェアで乗り切ろうなどということは根本的に間違っています。
 今必要なことは、需給調整や運賃改定を行う地域ごとのタクシー委員会をつくり、実態に合った台数や運賃を確立すること、さらにタクシードライバー法を制定し、労働条件を抜本的に改善することです。利用者の安心・安全を守り、労働者が働き続けることができる社会的水準の労働条件の整備が求められています。

「二種免許は安心・安全に必要」

DP運用、運賃改定の見解を質す

国交省要請行動

要請書を手渡す庭和田委員長(右)=7月20日、東京・参議院議員会館会議室
要請書を手渡す庭和田委員長(右)=7月20日、東京・参議院議員会館会議室

 自交総連は7月20日、日本共産党の田村智子参議院議員(国土交通委員)の協力を得て、ダイナミックプライシング(変動運賃制度)の運用、全タク連の川鍋会長が発言した二種免許不要論ともいえる制度の導入などに対して、緊急に国土交通省へ申し入れを行いました。
【質疑応答】
 Q1・第二種免許の必要性について、旅客の安心・安全を守る所管官庁の国交省の見解はどうなのか。
 A1・国交省としては、道路運送法で規定されているところであり、安心・安全の確保のためには、旅客運送に第二種運転免許は必要だと考えている。また運行管理もしっかりやっていただく。
 Q2・タクシーのダイナミックプライシング(変動運賃制度)を認可しないこと。
 A2・導入に当たっては個別事業者の判断となる。運賃水準を満たしているか確認するために、導入後3か月毎に実績を求め問題があれば指導し、是正されない場合は事業改善命令を出す。
 Q3・現時点の申請状況は?
 A3・申請はない。

全国一律1500円以上の最低賃金の実現めざす

生活改善として不十分

2023年度地域別最低賃金

 10月から適用となる2023年度の地域別最低賃金の答申が出そろいました(右表)。
 最高額は、東京の1113円で、後に神奈川の1112円、大阪の1064円と続きます。埼玉・千葉・愛知・京都・兵庫が初めて1000円を超えました。最低額は、岩手の893円で、東京と比較すると220円もの差があります。
 今回、全国加重平均の最低賃金額が1004円となりましたが、地域間格差は相変わらず解消されていません。引き上げ幅も物価上昇には追いついておらず、これでは労働者の生活改善としては不十分です。全労連が行った生計費調査では、最低限の生活をするためには時給1500円以上が必要という結果が出ており、5年以内に全国一律制を実現し地域間格差解消と時給1500円以上を実現すべきとしています。
 自交総連は、全労連がとりくむ最低賃金の格差是正と大幅引き上げをめざす運動に呼応する闘いを強めていきます。

戦争の悲惨さ目の当たりに

東京・大阪・長崎地連から参加

原水爆禁止2023世界大会

 原水爆禁止2023世界大会が8月7〜8日に、長崎県で開催され、自交総連の東京地連・大阪地連・長崎地連の組合員が参加しました。2回に分けて参加者の感想を掲載します。

閉会総会で高校生が核兵器をなくす1年の活動を報告する=8月8日、長崎
閉会総会で高校生が核兵器をなくす1年の活動を報告する=8月8日、長崎

基地反対へ声を上げ続ける

 大阪地連・木村彰さん 今回が初めての参加となりました。当初の予定が3日間で盛り沢山の企画を楽しみにしておりましたが、台風の影響で2日間になり残念でした。
 しかし2日目の「佐世保基地行動」に参加して大変感動を受けました。今までの知識だと「米軍基地のある佐世保」という印象でしたが、実際は日本の港ではないことにあ然とし、日本はいまだに占領されていることを実感しました。
 国防上、米軍の助けが必要であることは理解できますが、独立国である以上、情けない思いをします。すぐには状況が変わることはないにせよ、「米軍基地反対」の声を上げ続けることが平和への最短の近道だと信じたい。

政治のトップは何している

 東京地連・鳴海靖也さん 沖縄で戦争の傷跡に初めて触れました。それから二十数年後、被爆地の長崎を訪れて改めて戦争の悲惨さを目の当たりにしました。原水爆禁止2023年世界大会長崎が台風の影響で3日間から2日間に短縮されてハードスケジュールのなかで大変貴重な体験をさせていただきました。
 唯一の被爆国でありながら核兵器禁止条約に参加しない日本の政治は、政治のトップは何をしているのだろうと強く思いました。
 首相が長崎に来なかったのは「県民が来るな」と言ったからだという声が多く聞かれ、政治家達は本当に日本の何を考えてくれているのだろう、日本のために何をしてくれているのだろう、という思いでいっぱいです。
 昨今、タクシー業界のトップも何を考えているのだろうと思うことが多々あります。これからはもっともっと政治家やタクシー業界のトップに物申して参りたいと思います。

被災組合員へカンパ

 7月10日に発生した九州北部豪雨災害によって、甘木観光労働組合の組合員を中心に車の水没、断水、自宅の床下浸水被害が複数出ているとの報告が福岡地連から寄せられました。
 自交総連は、各地連・地本へ救援カンパを募ることを決定し、短い期間でありながら全国の仲間から多くの募金が集まりました。
 8月下旬には本部から福岡地連へカンパを振り込み、被災した組合員へお見舞金として渡されました。

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 福岡県の筑後・浅倉地区では、7月10日の明け方以降に線状降水帯が発生し、記録的な豪雨となりました。甘木観光労働組合では、ふたりの組合員が被災しました。被害は、床下浸水(一部床上)・断水・車両浸水などで、自宅近くでは土砂崩れも起こっており、人的被害も出ました。
 福岡地連の中村朗委員長は、災害2日後に被災組合員へ水などの支援物資を届けました。現地では通行止めや立入禁止の規制場所があり、あちらこちらで交通が寸断されていました。被害がひどかった地区では、豪雨から2日後に川でもないところから水があふれ出て、道路が川のような状態になるなど、完全な復旧にはまだ時間がかかる見通しです。
 この間、全国のなかまのみなさんにいただいたカンパは被災組合員に届けました。心より感謝申し上げます。ありがとうございました。
 甘木観光労働組合 執行委員長 中垣 勉


新加盟のなかま 

(869)東京・美松交通労働組合
労働環境の向上めざす

 東京都江東区の美松交通株式会社で働く仲間は7月17日、美松交通労働組合(中道羊吾委員長、10人)を結成しました。
 今年4月、中道委員長らが東京地連の事務所を訪問し、労働組合を組織したいと相談。林書記長のアドバイスを受けて結成に至りました。
 現在、職場での問題はありませんが、組合結成で労働者の団結を図って道交法の学習や共済制度の充実により労働環境の向上をめざします。