タクシードライバー法案大綱

2001.9.6 自交総連第5回中央執行委員会

『タクシードライバー法案大綱』の発表にあたって

     

(1)国家資格としての「タクシードライバー」免許

 今回、自交総連が政策プロジェクトで検討し、発表するに至った『タクシードライバー法案大綱』(タクシー運転免許の法制化)は、ハイヤー・タクシー事業で運転者として働くには、「タクシードライバー」の国家資格が必要であることを規定する法律の案文を示したものです。
 国家資格とは、法律にもとづいて、国または国の指定した機関が、資格試験を行うものです。たとえば医師、看護婦、弁護士、栄養士などが国家資格で、資格をもっていない人はその職業につけません。
 現在、タクシー運転者の資格としては、普通第二種免許と、東京及び大阪に限定されたタクシー業務適正化特別措置法にもとづく運転者登録制度とがあります。しかし、いずれの制度もタクシー運転者としての資質と技能を充分にチェックする役割を必ずしも果たしていない実情にあり、他方、運転者登録制度は近代化センターの高圧的な取締り主義によって運転者に対する処罰制度として受けとられているにすぎない、という欠陥をもっています。
 これに対し、タクシー運転免許の法制化は、タクシー運転者の法的地位を確立し、その人材養成と資質のチェックを通じて、タクシー・システムに良質な人材を確保することを目的とするものです。そして、この制度はタクシーの安心・安全を確保し、今後ますます重要性を増す福祉、介護分野での輸送充実をはかるには、もっとも効果があります。

(2)いまこそ、タクシー運転免許の法制化が必要・不可欠

 この制度は、タクシー台数規制の廃止(2002年2月実施)により懸念される運転者のくらしと雇用の際限なき悪化、輸送の安心・安全にかかわる不測の事態へのもっとも有効な防止策として、タクシーのあるべき発展方向との関わりの面でも、特別な意義をもっています。
 台数規制廃止のしくみの下では、賃金の出来高払い制というタクシーのもつ特殊性は、事業への参入の容易さとも相まって、増車志向を一段と刺激し、大都市を中心に大量増車による「異常な供給過剰状態」を現出させる危険があります。それは、タクシー運転者の賃金、雇用、権利に重大な悪影響をもたらすだけでなく、輸送の安心・安全の確保や都市交通の環境などにも無視できない弊害や混乱(交通事故の増大、道路交通の阻害・渋滞、マナーの低下)をもたらします。
 政府・国土交通省は、そうした危険があるからこそ「緊急調整措置」の予防策を講じている、と盛んに強弁していますが、そのしくみの枠組みは「抜かずの“竹光”」という他なく、まったく期待できません。
 こうした問題の解決策の決め手は、つまるところ経営者と運転者との関係において、『運転者優位のしくみ』を確立する以外にありません。すなわち、タクシー運転免許の法制化こそが必要・不可欠なのです。

(3)社会的地位の向上、事業の将来を築くために

 タクシー運転免許は、多くの国民が期待する“プロドライバーとしての資質の高度化”をはかろうとするものですが、同時にそれは、限られた「タクシードライバー」の数そのものが、稼働するタクシーの台数、つまり供給量そのものの抑制効果をもたらします。
 また、「タクシードライバー」の免許を得て、どこかで働こうとする場合、それなりの労働条件が保障されなければ、つまり条件が悪いところでは働かないという効果を生みます。この制度は、「良貨が悪貨(悪質経営者)を駆逐する」ものとしても有効に機能するはずです。
 さらに、新しい資格を得ようとするのは、その資格に見合う待遇が約束されることを、あらかじめ期待していることを意味します。
 21世紀における事業の明るい将来は、運転者に高いプライドをもたらし、社会的地位の向上にもつながるタクシー運転免許の法制化を可能にしてこそ、確実で決定的な一歩を踏み出すことができます。





『タクシードライバー』への道

  
 
 
普通第二種免許  
●受験資格
 
 
養成施設での知識・技能の修得  
   
●国土交通大臣に
 よる試験の実施 
学 科 試 験 (指定するものに、
試験事務を代行)
   
 
 
合     格  
   
●国土交通省への申請 免 許 申 請  
 
   
●国土交通省への登録 免 許 登 録 (指定するものに、
登録事務を代行)
   
 
 
タクシードライバー  

(注)国土交通省の権限は、省令の定めにより、地方局長(支局長)に委任





タクシードライバー法案大綱

  

第一章 総  則

 (法律の目的)
 第一条
 この法律は、タクシードライバーの資格等を定めて一般乗用旅客自動車運送事業の業務に従事する者の資質を向上させることにより、公共輸送の充実と発達を図り、もって旅客の安全と利便の増進に資することを目的とする。

 (タクシードライバーの定義)
 第二条
 この法律において、「タクシードライバー」とは、国土交通大臣の免許を受けて、タクシードライバーの名称を用いて、一般乗用旅客自動車運送事業の事業用自動車を運転して旅客の輸送をなす者をいう。

第二章 免  許

 (タクシードライバーの免許)
 第三条
 タクシードライバーになろうとする者は、タクシードライバー国家試験に合格し、国土交通大臣の免許を受けなければならない。

 (絶対的欠格事項)
 第四条
 次の各号のいずれかに該当する者には、免許を与えない。
 一 精神病者、精神薄弱者、てんかん病者、目が見えない者、耳が聞こえない者又は口がきけない者
 二 アルコール、麻薬、大麻、あへん又は覚醒剤の中毒者

 (相対的欠格事項)
 第五条
 次の各号のいずれかに該当するものには、免許を与えないことがある。
 一 罰金以上の刑に処せられた者
 二 前号に該当する者を除くタクシードライバーの業務に関し犯罪又は不正の行為があった者

 (タクシードライバー名簿)
 第六条
 国土交通省にタクシードライバー名簿を備え、免許に関する事項を登録する。

 (登録及び免許証の交付)
 第七条
 免許は、タクシードライバー名簿に登録することによって行う。
  国土交通大臣は、免許を与えたときは、タクシードライバー免許証を交付する。

 (登録代行の事務)
 第八条
 国土交通大臣は、その指定する者(以下「指定登録機関」という。)に、タクシードライバーの登録等に関する事務(以下「登録事務」という。)を行わせることができる。
  指定登録機関の指定は、登録事務を行おうとする者の申請により行う。

 (免許の取消し等)
 第九条
 タクシードライバーが、第四条の規定に該当するときは、国土交通大臣は、その免許を取り消す。
  タクシードライバーが、第五条各号の一に該当したとき、又はタクシードライバーの品位を損なう行為のあったときは、国土交通大臣は、その免許を取り消し、又は期間を定めて業務の停止を命ずることができる。
  第一項又は第二項の規定により免許を取り消された者であっても、その者がその取り消しの理由となった事項に該当しなくなったとき、その他その後の事情により再び免許を与えるのが適当と認められるに至ったときは、再免許を与えることができる。
  国土交通大臣は、第二項に規定する処分をしようとするときは、あらかじめ、その相手方にその処分の理由を通知し、弁明及び有利な証拠の提出の機会を与えなければならない。

 (政令への委任)
 第十条
 この章に規定するもののほか、免許の申請、タクシードライバー名簿の登録、訂正及び抹消、免許証の交付、書換え交付、再交付及び返納に関し必要な事項は、政令でこれを定める。

 第三章 試   験

 (試験の目的)
 第十一条
 試験は、タクシードライバーとして必要な知識及び技能について行う。

 (試験の実施)
 第十二条
 試験は毎年少なくとも一回、国土交通大臣が行う。

 (受験資格)
 第十三条
 試験は、道路交通法に規定する普通第二種免許試験に合格した者であって、国土交通大臣の指定したタクシードライバー養成施設において省令で定める期間以上、タクシードライバーになるのに必要な知識及び技能を修得した者でなければ、受けることができない。

 (試験事務の代行)  第十四条 国土交通大臣は、その指定する者(以下「指定試験機関」という。)に、タクシードライバー試験の実施に関する事務(以下「試験事務」という。)を行わせることができる。
  指定試験機関の指定は、試験事務を行おうとする者の申請により行う。

 (試験事務規定)
 第十五条
 (略)

 (試験委員)
 第十六条
 (略)

 (試験事務担当者の不正行為の禁止)
 第十七条
 タクシードライバー試験委員その他試験に関する事務をつかさどる者は、その事務の施行に当たっては厳正を保持し、不正の行為のないようにしなければならない。

 (省令への委任)
 第十八条
 この章に規定するもののほか、試験の課目、受験手続その他試験に関して必要な事項及び養成施設に関して必要な事項は、省令でこれを定める。

第四章 業  務

 (タクシードライバー業務の制限)  第十九条 タクシードライバーでなければ、第二条に規定する業務をしてはならない。

 (名称の使用制限)
 第二十条
 タクシードライバーでなければ、タクシードライバー又はこれにまぎらわしい名称を用いてはならない。

第五章 罰  則(略)

附  則(略)

 (注)自交総連が考えている試験内容は、@関係法令に関する基礎知識、A接客知識、B地理知識の三つである。試験そのものは、筆記もしくは口答によるものとするが、その具体的内容は以下のとおりである。
1)法令
 ○道路交通法及び関係法令の内容
 ○道路運送法及び関係法令の内容
 ○労働基準法及び関係法令の内容(自動車運転者の労働時間等の改善基準告示及び関係通達を含む)
2)接客知識
 ○旅客の接遇に関する基本的な知識
 ○身障者・病人等の特性と車両乗降時の介護方法、車両に乗車して移動する際の注意事項
3)地理知識
 ○登録しようとする事業区域の主要な道路、建物、観光施設等