2008.12.18 自交総連情報タイトル

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交政審答申「タクシー事業を巡る諸問
題への対策について」に対する見解

2008.12.18 自交総連第2回中央執行委員会

1.答申の概要と基本的な評価

 規制緩和後に生じた問題を検討し、今後のタクシーのあり方を審議してきた交通政策審議会タクシーワーキンググループは08年12月5日、「タクシー事業を巡る諸問題への対策について」と題する答申案を確認、同月18日には交通政策審議会会長の決裁を経て、交通政策審議会答申として国土交通大臣に提出された。
 答申は、タクシーで運転者の労働条件悪化などの諸問題が生じていることを認めたうえで、それらの原因について供給過剰や過度の運賃競争があると指摘、供給過剰については、特定地域指定制度を設けて参入・増車を抑制し、協調的な減車のためのスキーム(仕組み)を導入すること、運賃問題については下限割れ運賃の審査ガイドラインをつくることなどを提起している。
 多くのマスコミが「自由化路線を転換」「規制路線に回帰」と報道したように、この答申は、文面のうえで表現上の限界、不十分点は多くあるにしても、実質的に規制緩和を見直し、必要な規制の強化へと転ずるものであり、規制緩和とたたかい続けてきた我々の運動の重要な前進を示す成果といえるものである。

2.答申が示した個別課題ごとの評価

(1) タクシーの位置付け
 答申は、タクシーを「地域公共交通を形成する重要な公共交通機関である」と位置付け、タクシーのあり方を検討する際には、良質なサービス提供とともに「産業としての健全性、労働者の生活の確保、地域社会への貢献」などの視点も含めて探求するべきだとしている。
 これは、自交総連が求めてきた安全で利用しやすいタクシー、運転者の権利確保と社会的地位向上という視点と一致するものである。「すべての関係者にとって望ましい姿を探求する」という姿勢は今後の行政の基本とするべきであり、道路運送法の改正に当たっても労働者保護、安全運行規定が一体的に機能するよう考慮されるべきである。

(2) 現状分析
 答申は、タクシー事業をめぐって起きている諸問題とその原因については、供給過剰と過度な運賃競争の発生、その構造的要因としての利用者の選択可能性の低さ、運転者の歩合制賃金などを指摘している。
 この分析は、自交総連がすでに規制緩和以前に指摘した「新たな段階を迎えたタクシー規制緩和と今後の課題」(1998年)、規制緩和後の実績をふまえた「もうひとつのタクシー 確かな再生へ」(2006年)等のプロジェクト報告で解明した現状分析と一致するもので正しい分析である。規制緩和に反対し、その危険性を指摘し続けてきた自交総連の先見性と現状分析の正確さを改めて示したものである。

(3) 規制緩和政策に対する反省の欠如
 以上のように答申は、現状をほぼ正確に分析しながらも、その根本的な原因となった規制緩和政策そのものについては、反省がない。規制緩和政策によって様々な問題が引き起こされたことを実態としては認め、規制強化への政策転換をはかる方向を提起しているにも関わらず、規制緩和が失敗であったこと、それを強行した政治・行政の責任には触れていないのである。
 これは、規制緩和を自ら推進した国土交通省が主管する政府審議会の限界を示すとともに、規制改革会議などの規制緩和推進勢力が規制緩和の見直しを強く牽制してきたことも影響しているものといえる。規制緩和政策そのものへの評価をあいまいにしたまま手直しを提起するという答申の不十分さが、今後の対策についても抽象的な表現にならざるを得なかった要因ともなっている。

(4) 運賃制度のあり方
 答申は運賃決定方式については、現行の総括原価方式を適当としつつ、現状追認にならないように「適正実車率」や「適正人件費」のような概念を導入して査定方式を見直すとしている。自交総連は、かねてから低すぎる賃金などの現状を基礎に運賃査定が行われる実績原価主義を批判し、適切な賃金を支払える原価を想定した標準原価方式の実現を提起してきた。答申が示した見直しの方向は、標準原価方式への接近として注目できる。
 また、過度な運賃競争への対策として、下限割れ運賃の審査の厳格化、ガイドラインの策定を提起している。低額運賃で運行している事業者は、運転者へ低賃金・長時間労働を強要しているからこそ運賃を安くできるのが実態である。ガイドラインはそうした実態を規制できる実効性のあるものとならなければならない。
 一方で答申は、「多様な運賃の存在もサービスの一つ」などとして同一地域同一運賃は否定している。これは、運賃競争が需要の拡大をもたらしていないことや利用者の選択可能性の低さを正しく分析していることと矛盾している。制度としての幅運賃が継続されるとしても、適切なコスト(とくに人件費)を考慮すれば上限運賃を採用せざるを得ないことは明白である。

(5) 供給過剰対策
 答申が、供給過剰は「様々な問題の背景に存在する根本的な問題」との認識を示しているのは正当な認識である。
 新規参入・増車に関しては「特定地域指定制度」を設けて、労働条件の悪化を招かないようにチェックを厳格化するとしている。これは、現在、特定特別監視地域で行われている方式を法律上の制度とするものといえ、厳格な運用がなされれば、抑止効果を発揮できる。とくに、必要な運転者数の確保など労働条件に関わる審査と事前・事後のチェックを強化して、実効性を確保する必要がある。
 指定された地域では、「多様な関係者の参画」のもとで「タクシー維持・活性化総合計画」を作成、総合交通ネットワークや運転者の労働条件、供給抑制などを広く協議するとしていることは、労働者・労働組合を含む関係者が協議する仕組みをつくるべきだとしてきた自交総連の提案と一致するものである。国や地方公共団体による支援充実も明記されており、地域の交通政策の中にタクシーを位置付けた計画の作成とその実践、財政面を含む行政の支援の充実が求められる。
 すでに供給過剰となっている地域の減車については、審議の中で提起された独占禁止法の適用除外について「近年の我が国の経済社会情勢における競争政策の趨勢の中で、タクシー事業のみに新たにそのような制度を設けることには、十分な理解が得られていない」としている。公正取引委員会などとの調整結果を反映したものであろうが、アメリカ発の金融危機が明らかにしたように「競争政策の趨勢」自体が今日では世界的に反省の対象となっていることを考えれば、安易な妥協的姿勢といわざるを得ない。
 そして、独禁法の適用除外に代わる方策として、「協調的なとりくみが推進されるスキーム(仕組み)を導入すべきである」との提起がされている。これは抽象的な表現であるが、審議の経過や国交省の説明によれば、産業活力再生特別措置法の、複数の事業者が共同して施設・設備の廃棄等を行い過剰供給構造の解消をめざすという仕組みを活用して減車を実現しようというものである。国交省は、新しい法律の策定も含めて実現をはかるとしており、実際に減車につながる有効な方策となり得るかどうかは、今後の課題として残されている。しかし、減車が必要なことを公式に認めて、そのための法改正や制定に踏み出したことは、歴史的な変化といえ、文言にはなくとも、規制緩和の失敗を象徴するものである。

3.今後の対応

 自交総連は、最も早くからタクシー規制緩和の害悪を指摘して、運動の面でも理論政策の面でも、徹底して規制緩和とたたかってきた。その先進的な指摘は、この答申にも大きな影響を与えて、実質的な規制緩和の見直しをかちとるに至った。この前進を確信にして、依然として構造改革・規制緩和にしがみつく反動勢力の妨害とたたかい、政府・国交省が規制緩和政策と決別するよう求めるものである。
 答申で提起された方策が、本当に実効性を発揮するかどうかは、今後の国交省の対応、具体化にかかっている。規制緩和による労働条件の悪化と安全性・利便性の低下は一刻の猶予も許されない危機的な状況になっており、減車の実現、新規参入・増車の抑制、運賃競争の抑止と不当な低額運賃の是正などは、速やかに対策が行われなければならない。具体的で即効性・実効性のある対策が実行されるよう、必要な検討・政策提起も含めて、運動を強めていく。
 答申は、タクシーの公共交通機関としての位置付けや運転者の資質の確保などこれまでの自交総連の提案とも一致する積極的な内容も含んでいる。そうした点も生かして、タクシー問題の根本的な改善につながるタクシー運転免許制度の実現を追求していくものである。

以  上

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