バス事業は、貸切バスが2000年、乗合バスが2002年に規制緩和されて以来、新規参入事業者の激増による過当競争の激化、運賃ダンピングの常態化(貸切)、不採算路線の切捨て、貸切との運賃競争(乗合)などが顕著になった。コスト削減のために賃金・労働時間・雇用が急速に悪化し、それはバスの安全運行にも深刻な悪影響をもたらしている。
7人もの犠牲者を生んだ2012年4月の関越自動車道での夜行ツアーバスの重大事故は、こうした規制緩和の弊害を象徴的に示すものであった。
すでに2007年には運転者の過労運転が原因のあずみ野観光バス事故が起こり、総務省が国土交通省はじめ関係省庁に「貸切バスの安全確保対策に関する行政評価・監視結果に基づく勧告」(2010年)を行って、旅行業者とバス事業者の関係、交替運転者配置指針の見直しなどの勧告を行っていたにもかかわらず、十分な対応をとっていなかった国土交通省はじめ関係行政当局、政府の責任はまぬがれない。事故後に国土交通省は、過労運転防止検討会やバス事業のあり方検討会で、交替運転者配置基準の見直しや事業規制のあり方を論議し、対策等を打ち出したが、依然として規制緩和政策そのものの見直しにつながる姿勢はみられず、安全基準の見直しも不十分なままである。
自交総連は、一貫してバス事業の規制緩和の危険性を指摘し、交通機関の安全を直接担保する運転労働者の労働条件を改善しない限り、真の安全は確保できないことを主張し続けてきたものである。しかし、われわれの度重なる要求にもかかわらず、バス事業での規制緩和の見直しが進まない要因の一つに、バス労働者のなかでの労働組合組織率の低さ、階級的労働組合への結集の弱さがあることを直視せざるを得ない。
バス労働者の労働条件を改善し、事業の健全化をはかるためには、そこで働く労働者が団結し、産業別組織に結集して、要求を掲げてたたかうことが不可欠である。現在、自交総連には、大阪・宮城・神奈川など一部の地方にしかバス労働者が組織されていない。全国的にバス労働者の組織化を進め、多くの地方でバスの労働組合を確立していくことが求められている。
その前進のためにも、バス労働者の要求をまとめ、基本的な政策を示すことが必要であるとの観点から、この政策(案)をまとめた。これは基本政策であるので、当面の対策や個別政策は別途検討を行っていくものである。今後、8月までに広く関係者の意見を求めて充実させた上で確定する予定である。長期的な将来展望を見据えて、バス労働者の要求実現の基礎として役立つものとなるように、多くの方からご意見を寄せていただきたい。
労働者の団結する権利を保障した労働組合法や労働条件の最低基準を定めた労働基準法を尊重し、労使対等の立場による団体交渉によって、雇用、賃金・労働時間など労働条件問題の解決にあたること。 |
1.労働組合を敵視し、弱体化をはかるなどの労務政策をとらず、対等で健全な労使関係を職場に確立すること。
2.賃金・労働条件は労使の団体交渉によって決め、一方的な切り下げ、権利侵害、雇用形態の変更などを行わないこと。
3.事業所閉鎖・廃業、譲渡、合併、従業員の解雇、処分、配置転換など重大な変更については、労働組合と事前に協議し、合意を前提とする同意約款を締結すること。
4.雇用については、日雇い・アルバイトなど違法な雇用形態を排除すること。期間の定めのない正規雇用を原則とし、パート・嘱託、派遣などの非正規雇用労働者は正規雇用への転換をはかり、賃金・労働条件は同一労働同一労働条件の原則をふまえ改善をはかること。
5.職場内でのパワハラ、セクハラ、配車差別等を排除し、労働者の人権が保障されるようにすること。
労働法制の規制緩和を行わず、労働者保護法制を充実させること。 労働組合法、労働基準法などに定められた労働者・労働組合の権利を認めず、不当労働行為や労働条件の一方的切り下げ、権利侵害を行うバス事業者、また不当な労働条件の強要につながる無理な運行や低運賃などの取り引きを強要する旅行事業者に対しては、断固としたきびしい行政姿勢を堅持し、法にもとづく厳格な処分を行うこと。 また、国交省・観光庁、厚労省、警察庁等の相互通報制度など関係行政機関の協力・連携を強化し、適切な監査体制を確立すること。 |
目先の利益確保や労働者への犠牲転嫁による生き残りではなく、まともな賃金・労働条件の保障と事業の健全な発展を担保する経営基盤の確立のために、バス事業の規制緩和に反対し、適切な規制にもとづく公正競争の実現、旅客サービスの向上、需要の拡大など共通する政策課題での労使の協力・共同を行う方向へ、経営政策を転換すること。 |
1.過当競争の是正、防止のため、新規参入・増車、運賃の規制強化を国に求め、需給バランスと適切な運賃水準の確保をめざすこと。優越的な地位を利用した旅行事業者の無理な運行計画や運賃切り下げ要求は拒否し、またそれを可能とする環境・制度の整備を国・行政に要求すること。
2.労働者犠牲の賃下げ、不安定雇用化、人員削減等によるコスト削減といった経営危機の乗り切り策を改め、「経理公開」を含む経営実態の説明など真面目な対応により、経営改善あるいは倒産防止、将来展望にむけての協力・共同を労働組合と行うこと。
3.需要の拡大など営業収益増加策を工夫し、経営の安定・発展に努めるとともに、経営規模の限度を超える管理部門の費用、異常な金利負担など経営圧迫要因をチェックし、その改善や事業の効率的運営にむけ努力すること。
安心・安全を破壊したバス事業の規制緩和政策を改め、安全を保てる労働条件が維持できる適切な規制を確立、強化すること。バス事業者に仕事を発注する旅行事業者等が無理な運行や低運賃を強要することのないよう規制すること。 バス事業の健全な発展のために、国民の交通権の確保、観光の振興、道路や施設等の整備、環境保全、国民が余暇を楽しめる生活・労働環境の改善をはかること。 |
1.貸切バスの、新規参入・増車の需給調整規制、区域外営業規制、安全が担保できる原価計算にもとづく認可運賃制度など、適切な事業規制を確立、強化すること。ツアーバスの安全を確保する規制を行うこと。
2.旅行事業者が優越的な立場で無理な運行や低運賃をバス事業者に強要するなどの不当な行為を行わないよう罰則を伴う規制を行うこと。
3.貸切バス事業の許可を受けない、旅館・ホテル等の送迎や学校・運動部等の自家用バスなど安全性の面で問題が大きい輸送方法を排除する規制を行うこと。
4.学校行事、地方自治体等による施設送迎や委託業務などの公契約については、運転者の社会的水準の労働条件確保に必要な原価が保障される運賃での契約を行うこと。
5.国は、積極的な観光振興、国内外の観光客の増大に資するため、自然環境の保全、道路や施設等の整備を行い、国民が健全に余暇を楽しめる生活・労働環境の改善に努めること。
企業の社会的責任を自覚し、安心・安全の確保、利用者利便の向上に努めて社会的な評価を高めるとともに、良質な労働力を確保して、労働者のモチベーションを高めることで事業の将来展望をひらく経営政策の立場に立ち、従業員の研修・講習制度を充実させること。 |
多くの乗客が利用するバスの安全確保に直接責任を負う運転者の労働条件の確保と資質向上のため、最低労働条件の法制化、国際基準にそった適切で実効性のある労働時間規制を行い、運転者登録制度・乗務員資格制度の確立、研修・講習制度等の充実をはかること。 |
1.バス運転者の最低労働条件確保のため、自動車運転者の労働時間等の改善のための基準、交替運転者配置基準などの労働時間規制を改正・強化し、法制化するなど実効性をもたせること。
(当面する要求) (1) 自動車運転者の労働時間等の改善のための基準の改正 拘束時間 1日13時間、1か月240時間以内 休息期間 11時間以上 運転時間 1日7時間以内 連続運転時間 2時間以内、1回につき15分以上の休憩確保 (2) 交替運転者配置基準の改正 すべての貸切バスについて、走行距離500km(回送を含み、一般道は2倍換算)、夜間運行は距離にかかわらず運転者2人制 |
自 交 総 連