危険な白タク ライドシェアの合法化は許せません

(2016年2月掲載、6月改訂)

 自家用車を使った危険な輸送方法「ライドシェア」(相乗り)を合法化する動きがすすみ、安倍首相も規制改革の一環として解禁に前のめりです。ライドシェアは、公共交通機関であるタクシーの規制を根本から破壊するもので、利用者の安全とタクシー労働者の暮しを破壊してしまいます。自交総連は、ライドシェア合法化の阻止に全力を挙げています。

 1.ライドシェア合法化の動き

 2015年10月、国家戦略特区諮問会議で安倍首相が「観光客の交通手段として自家用車の活用を拡大する」と述べ、自家用車のライドシェアを特区で実施する意向を示したのをうけ、16年5月、国家戦略特区法改正が自民・公明・おおさか維新の賛成で可決・成立し、特区内で観光客運送を名目にした自家用有償運送が従来より簡単にできるようになりました。

 改正法では、自家用有償運送はあくまでバスやタクシーがない地域での特例という枠がはめられてはいますが、既に実施している京都府京丹後市や計画をしている兵庫県養父市などでは、ライドシェア企業ウーバーのアプリシステムをつかって自家用車による運送を行うことにしており、これを足掛かりにしてライドシェアの認知、全国的な展開が狙われています。

 ライドシェアとは?

 ライドシェアは、一般ドライバーが自家用車を使って他人を輸送するもので、ドライバーと利用者をつなぐスマートフォンのアプリが開発されたことで、世界中で急速に拡大しています。アメリカ・サンフランシスコ発祥のウーバー(Uber)とリフト(Lyft)などの企業が激しい競争を繰り広げています。両社は、グーグル、GM、トヨタなど名だたる大企業からの出資を受け、巨額の利益を上げています。

 利用者がスマホで配車を依頼すると、近くにいる登録ドライバーが自家用車で迎えに来て、目的地まで乗せていきます。利用者はクレジットカードでライドシェア仲介企業に料金を支払い、同企業からドライバーに距離等に応じた報酬が支払われます。これは、わが国では、道路運送法に違反する「白タク」行為です。

 2.ライドシェアの危険性

タクシーとライドシェアの違い
項 目 タクシー ライドシェア
事 業 者 車両を保有、運転者を雇用し、運行全体に責任を負う 仲介のみで運行には責任を負わない




運転免許 二種免許、登録制度(講習、試験あり) 一種免許
労働時間 拘束時間、休息期間などを規制、兼業・アルバイトは禁止 管理・規制なし
健康状態・アルコールチェック 乗車前の点呼、アルコールチェック義務付け 管理・規制なし
経歴や資質 社員として管理 社員でない
車  両 点検、整備、清潔保持などを規制 規制なし
事故時の責任 会社が対応 個人で対応
保険の補償 事業用の保険に加入義務付け 自家用自動車保険(支払われるか不明)


 

ライドシェアに対する各国の規制
2014年 ▲フランス パリ地裁が違法判決
▲アメリカ ネバダ地裁が仮差止命令
▲スペイン マドリード商務裁判所がサービス停止の仮処分
▲イ ン ド デリー首都圏で業務停止命令
▲韓 国 ソウル検察が自家用車を用いたサービス等を行った代表者を起訴
2015年 ▲中 国 配車アプリを使って自家用車に客を乗せる行為を禁止
▲ド イ ツ フランクフルト地裁がドイツ全土で提供を禁止
▲ブラジル リオデジャネイロ市が営業を禁止する法案を承認
▲ILO ライドシェアに対する国内法規の全面的履行を加盟国に求めることを決議
(国交省の規制改革会議への回答、ITF資料から作成)

ライドシェアに関わる事故・事件
2013年 ▲アメリカ サンフランシスコでウーバーのドライ バーが起こした死亡事故について、ウ ーバーが責任はないと主張(2014.1.2 Tech Crunch)
2014年 ▲インド デリーで、25歳の女性に対する暴行容疑でウーバーのドライバーを逮捕(2014.12.9 Huffington Post)
▲アメリカ マサチューセッツ州で、女性客に現金を要求、暴行した容疑でウーバーのドライバーを起訴(2014.12.19 Ars Tecnica)

 ライドシェアは、車も持たず、運転者も雇わない企業が、利用者とドライバーの仲介をするだけで、運行と雇用に対する責任を負わずに利益だけをあげるビジネスです。

 一方で、タクシーやバスなどの公共交通機関は、道路運送法にもとづく事業許可を得て、運行と運転者の雇用に責任を負って、輸送の安全を確保しています。

 具体的なライドシェアの危険性は次のとおりです。

 (1) 運転者は二種免許を持っていない一般ドライバーです。資格のない運転者が他人を輸送することになります。

 (2) タクシーは、過労運転防止のため運転者の拘束時間や休息期間(勤務と勤務の間隔)が規制されていて、乗務前には点呼、アルコールチェックが義務付けられています。兼業・アルバイトも禁止です。ライドシェアの運転者は、誰もチェックする人がおらず、兼業で運転するケースが予想されます。

 (3) タクシーの車両は、自家用車より厳しい車検、定期点検、清潔の保持・消毒などが義務付けられていますが、ライドシェアは自家用車の基準しか適用されません。

 (4) 事故が起こったときは、タクシーでは会社の責任で処理に当たりますが、ライドシェアでは運転者個人の責任となります。

 (5) 事故の際の保険は、タクシーでは事業用保険に加入が義務付けられていますが、ライドシェアでは、運転者が自家用自動車保険に加入していたとしても、業務として他人を輸送していたとなると、保険金が支払われるかわかりません。

 ライドシェアが導入された国では、表のように実際に多くの問題が起きて、禁止の規制がされています。

 3.特定企業の利益のために

 ライドシェアの合法化を執拗に求めているのは、楽天の三木谷浩史社長が代表を務める新経済連盟で、規制改革会議に提案を行い、まずは国家戦略特区で解禁させることを狙って15年10月、「シェアリングエコノミー活性化に必要な法的措置に係る具体的提案」を発表、ホームシェア(民泊)とライドシェアを広める提言をしています。

 楽天は15年にライドシェア企業のリフトに3億ドル(360億円)の出資を行い、三木谷氏が取締役になっています。
 また、ウーバーは、全国の自治体に自社のスマホ・アプリを提供して自家用有償運送のシステムをつくるようにセールスかけ、ウーバージャパンの高橋正巳社長は「過疎地などで当社のしくみを役立ててもらう」「自治体などからの問い合わせはかなり増えている。やれるところからやっていく」(日経16.6.6)と述べ、いずれは「日本全国どこでもUberが使えるようにしていきたい」(経済界15.11.9)としています。

 こうした動きは、政府の規制改革路線にそって、規制改革会議、未来投資会議(旧産業競争力会議)、国家戦略特区諮問会議などを舞台に行われているもので、特定企業の利益のために、ライドシェアを合法化させて、巨額のビジネスチャンスを得ようという意図は明らかです。

 4.地域交通確保に、もっと補助を

 乗合タクシーで病院に通うお年寄り(山形県鶴岡市)

 バス路線が廃止され、タクシーも少ない過疎地域において住民の移動手段がないことがライドシェア導入の口実とされています。こうした地域で交通を確保することは地域活性化のためにも重要な課題です。

 バス路線の維持や乗合タクシー等の導入について補助金が出る制度がありますが、決して十分とはいえません。国の補助に加えて地方自治体が相当な財政措置を講じて、なんとか公共交通を維持しています。しかし自治体の財政事情はどこでも厳しく、住民が便利に使える交通網を維持するには足りていません。

 そのなかでも多くの努力が行われています。山形県鶴岡市では、自交総連の組合が倒産会社を引き継いで自主的に経営しているタクシー会社が、デマンドタクシーの運営を市と協力して実現しました。山間部で予約した利用者の自宅を回って市街地まで定期的に運行しています。市の補助金で安く利用できるために、買い物や通院に利用され喜ばれています。

 こうしたとりくみが、住民にとって十分に便利で使い勝手がよいものとなるように、現在の補助制度を抜本的に充実させ、公共交通が持続的に運行できるようにしていけば、危険なライドシェアに頼る必要はなくなります。

 安全をないがしろにして、特定企業の利益に奉仕するライドシェアの解禁を許してはなりません。



自 交 総 連