危険な白タク ライドシェアの合法化は許せません

(2023年11月掲載、2024年1月追加)

 自家用車を使った危険な輸送方法「ライドシェア」を合法化する動きが進んでいます。
 ライドシェアは、公共交通機関であるタクシーの規制を根本から破壊するもので、利用者の安全とタクシー労働者のくらしを破壊してしまいます。
 自交総連は、どのような形態であれ「ライドシェア」と称するものは危険な白タク行為であると考え、解禁阻止に全力を挙げています。

 ※ 詳細をまとめた冊子 →危険な白タク ライドシェア Q&Aパンフレット2023年版

 1.ライドシェア合法化の動き


 事の始まり

 2015年10月、国会戦略特区諮問会議で安倍元首相が「観光の交通手段として自家用車の活用を拡大する」と述べたことで、自家用車のライドシェアを特区で実施する意向が示されました。
 2016年5月には、国家戦略特区法改正が自民・公明・おおさか維新の賛成で可決・成立し、特区内で観光運送を名目にした自家用有償旅客運送が従来より簡単にできるようになりました。
 この流れはさらに加速し、2020年5月・2023年4月には、道路運送法の改悪を含む地域公共交通活性化法等の改定法が可決され、交通空白地・交通不便地域などでの自家用有償旅客運送が拡大されました。

 そして、2023年10月23日、岸田文雄首相は臨時国会の所信表明演説で、「地域交通の担い手不足や移動の足といった、深刻な社会問題に対応しつつ、ライドシェアの課題にとりくんでいく」と表明したことにより、国会でライドシェアをめぐる議論が展開されることとなりました。
 こうした中で、政府は12月26日開催の規制改革推進会議と国家戦略特別区域会議を合同で行い、「中間答申」を公表しました。
 この答申に沿って、いわゆる「日本型ライドシェア」(タクシー事業者管理のもと行われる自家用車・一般ドライバーを活用した旅客輸送)や、自家用有償旅客運送制度(道運法第78条第2号・3号)の運用緩和・拡大が進められようとしています。
 さらには、タクシー事業者以外の事業者が自家用車・一般ドライバーによる旅客輸送に参入できるようにするためのライドシェア新法の制定を含めた国会議論を、今年6月に向けて行おうとしています。


 昨今の情勢、自交総連の動き

年月日 事     項
2023. 8.19 菅義偉前首相 講演会(長野市内で開催)で、ライドシェア導入への前向きな党内議論に言及
8.29 河野太郎デジタル大臣 ライドシェアの解禁を含む交通・物流サービスのデジタル化を議論するワーキンググループを庁内に立ち上げたと表明。ライドシェアを導入するルール作りに積極的な姿勢を示す
8.29 神奈川県の黒岩祐治知事 定例の記者会見で「ライドシェアの実現性について庁内で検討するよう指示した」と公表
9.11 自交総連 黒岩神奈川県知事へ抗議文を送付
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10.10 自交総連 神奈川県庁前で、ライドシェア導入抗議行動を実施。要請書を手渡す。
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10.17 大阪府の吉村洋文知事 府議会で、2025大阪・関西万博に向けて来年秋から閉幕時までの「期間限定」で、「ライドシェアを実現させるためプロジェクトチームを来月にも発足させる」と表明
10.18 自交総連 第46回定期大会を開催し、毎月第一週に「ライドシェア解禁阻止」の宣伝行動を全国各地で実施する方針を決定
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10.23 岸田文雄首相 臨時国会の所信表明演説で、「『デジタル行財政改革』としてライドシェアの課題にとりくむ」と言及
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11.11 自交総連 11・10中央行動として請願行動、座り込み行動、省庁交渉を実施
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11月 自交総連 [ライドシェア阻止毎月宣伝行動]東北、神奈川、関西で実施
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12月 自交総連 [ライドシェア阻止毎月宣伝行動]東北、東京、神奈川、静岡、関西、長崎で実施
 →詳細1
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12.22 政府の『デジタル行財政改革会議』、「中間とりまとめ」を公表。
地域の自家用車・ドライバーを活用した運送サービスの提供を可能とする制度導入、自家用有償旅客運送制度を徹底的に見直し、実施しやすさを向上するなどとした
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12.26 政府の『規制改革推進会議』、「中間答申」を公表。
タクシー事業者管理のもと行われる自家用車・一般ドライバーを活用した「日本版ライドシェアや、自家用有償旅客運送制度(道運法第78条第2号・3号)の運用緩和・拡大を決定し、タクシー事業者以外の事業者が自家用車・一般ドライバーによる旅客輸送に参入できるようにするためのライドシェア新法の制定を含めた議論を今年6月に向けて行うとした
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 ライドシェアとは?

 ライドシェアは、一般ドライバーが自家用車を使って他人を輸送するもので、ドライバーと利用者をつなぐスマートフォンのアプリが開発されたことで、世界中で急速に拡大しています。アメリカ・サンフランシスコ発祥のウーバー(Uber)とリフト(Lyft)などの企業が激しい競争を繰り広げています。両社は、グーグル、GM、トヨタなど名だたる大企業からの出資を受け、巨額の利益を上げています。

 利用者がスマホで配車を依頼すると、近くにいる登録ドライバーが自家用車で迎えに来て、目的地まで乗せていきます。利用者はクレジットカードでライドシェア仲介企業に料金を支払い、同企業からドライバーに距離等に応じた報酬が支払われます。これは、日本では、道路運送法に違反する「白タク」行為です。


 2.ライドシェアの危険性


 ライドシェアは、車も持たず、運転者も雇わない企業が、利用者とドライバーの仲介をするだけで、運行と雇用に対する責任を負わずに利益だけをあげるビジネスです。
 一方で、タクシーやバスなどの公共交通機関は、道路運送法にもとづく事業許可を得て、運行と運転者の雇用に責任を負って、輸送の安全を確保しています。

 タクシーとライドシェアの違い

項 目 タクシー ライドシェア
事 業 者 車両を保有、運転者を雇用し、運行全体に責任を負う 仲介のみで運行には責任を負わない




運転免許 二種免許、登録制度(講習、試験あり) 一種免許
労働時間 拘束時間、休息期間などを規制、兼業・アルバイトは禁止 管理・規制なし
健康状態・アルコールチェック 乗車前の点呼、アルコールチェック義務付け 管理・規制なし
経歴や資質 社員として管理 社員でない
車  両 点検、整備、清潔保持などを規制 規制なし
事故時の責任 会社が対応 個人で対応
保険の補償 事業用の保険に加入義務付け 自家用自動車保険(支払われるか不明)



 具体的なライドシェアの危険性は次のとおりです。

 (1) 運転者は二種免許を持っていない一般ドライバーです。資格のない運転者が他人を輸送することになります。

 (2) タクシーは、過労運転防止のため運転者の拘束時間や休息期間(勤務と勤務の間隔)が規制されていて、乗務前には点呼、アルコールチェックが義務付けられています。兼業・アルバイトも禁止です。ライドシェアの運転者は、誰もチェックする人がおらず、兼業で運転するケースが予想されます。

 (3) タクシーの車両は、自家用車より厳しい車検、定期点検、清潔の保持・消毒などが義務付けられていますが、ライドシェアは自家用車の基準しか適用されません。

 (4) 事故が起こったときは、タクシーでは会社の責任で処理に当たりますが、ライドシェアでは運転者個人の責任となります。

 (5) 事故の際の保険は、タクシーでは事業用保険に加入が義務付けられていますが、ライドシェアでは、運転者が自家用自動車保険に加入していたとしても、業務として他人を輸送していたとなると、保険金が支払われるかわかりません。



 3.世界各国とライドシェア


 

ライドシェアに対する各国の規制
▲ブラジル 2015.8-9 リオデジャネイロとサンパウロで禁止の条例案を制定
▲ベルギー 2015.9 ブリュッセル商事裁判所がウーバーの提供を禁じる判決
▲イタリア 2017.4 全土でウーバーの営業を禁止
▲E  U 2017.12 司法裁判所がウーバーは運輸業で法規制が適用されるとの判決、欧州全域に適用
▲中  国 2019.1 前年の殺人事件を受け、ライドシェアの運転者・車両を規制
▲韓  国 2019.8 旅客自動車運輸事業法の改正により厳格にライドシェアを禁止
▲フランス 2020.3 仏最高裁がウーバーと運転者に雇用関係があると判決
▲イギリス 2021.2 英最高裁がウーバーの運転者は雇用労働者と判決

ライドシェアに関わる事故・事件
▲米  国 2013.12 サンフランシスコの横断歩道で発生した6歳の少女の死亡事故について、ウーバーは「公式の走行中(客を乗せてるとき)に起こらなかった事故でウーバーは加害者ではない」と責任を否定 (AOL TechCrunch)
▲米  国 2014.12 マサチューセッツ州で、女性客にATMで現金を引き出すよう要求、夜間人気のない場所で女性を殴打・強姦した容疑でウーバードライバーを起訴 (Ars Technica)
▲中  国 2018.5,8 滴滴(ディディ)のライドシェア運転者が20代の若い女性を暴行して殺害する事件が連続して発生。運転者が女性客の容姿を評価して情報共有していた事実も発覚 (AFP他各紙)
▲米  国   ウーバーが公表した「安全報告書」によると、2017〜18年の2年間で、ウーバーの運転者・乗客の関わる性的暴行被害が5981件、レイプ被害が464件、事件による死亡者が19人にのぼった (各紙)


 ライドシェアを推進している新経済連盟は、東京オリンピックの際に「ライドシェアも使えないなんて日本はなんて遅れた国なんだろう」と来日客に思われるなどという意見を出し、ソフトバンクグループの孫会長は、ライドシェアを禁止するなんて「ばかな国」と言っています。

 ライドシェアがまるで世界中で当たり前で日本が時代遅れであるかのようですが、これは事実を無視した勝手な主張です。実際には右表のように、ライドシェアを導入した国の多くで、たくさんの問題が発生して、禁止か再規制がされています。

 世界でライドシェアが普及した理由として、もともとタクシーの質が悪く、安心して利用できない国が多かったという点があげられます。

 そうした国では、タクシーやハイヤーの規制が緩く、ドライバーの接客やサービスに問題があり、タクシーに安心して乗れませんでした。そうした問題があった中で、呼べばすぐに来る、料金が事前にわかるなどの点が評価され、普及したという事情があります。

 日本のような安心・安全性を誇るタクシーがある国でライドシェアは必要ありません。

 ライドシェアのドライバーは、ライドシェア企業と契約しているだけで雇用関係はなく、身元確認も不十分のため、乗客に対する恐喝や強盗、性犯罪が多発しています。アメリカで使ってみて、便利だったという感想を述べる人もいますが、たまたま大丈夫だっただけで、どの車でも安心という保障はなく、女性が夜一人で乗るのは危険です。

 外務省も渡航者に向けて「必ずタクシー乗り場などから正規のタクシーを利用し、営業許可を受けていない白タクには絶対に乗らないように」と注意喚起しています。

 このライドシェアの問題点を国土交通省も認識しており、道路運送法の規定に反するとして、これまでの自交総連との交渉でも「運行・整備に責任を負う主体を置かず、運転者のみに責任を負わせるライドシェアを認めるわけにはいかない」と反対の姿勢を示しています。


 4.特定企業の利益のために


 ライドシェア合法化を求めているのは楽天の三木谷浩史会長が代表理事をしている新経済連盟や孫正義会長のソフトバンクグループなどのIT企業です。

 楽天は2015年、ライドシェア企業のリフトに3億ドル(330億円)を出資、三木谷氏がリフトの取締役に就任しています(2020年8月に退任)。ソフトバンクはウーバー、滴滴(ディディ)など世界中のライドシェア企業に総額1.6兆円以上の投資をしています。

 また、ウーバーは、全国の自治体に自社のスマホ・アプリを提供して自家用有償運送のシステムをつくるようにセールスをかけ、ウーバージャパンの高橋正巳社長は「過疎地などで当社のしくみを役立ててもらう」「自治体などからの問い合わせはかなり増えている。やれるところからやっていく」(日経2016.6.6)と述べ、いずれは「日本全国どこでもUberが使えるようにしていきたい」(経済界2015.11.9)としています。

 こうした動きは、政府の規制改革路線にそって、規制改革会議、未来投資会議(旧産業競争力会議)、国家戦略特区諮問会議などを舞台に行われているもので、特定企業の利益のために、ライドシェアを合法化させて、巨額のビジネスチャンスを得ようという意図は明らかです。
 要するに自分が出資した企業が日本国内で自由にビジネスができるようにライドシェアの合法化を求めているということです。

 新経済連盟は2015年と16年に、ライドシェア実現に向けての提案を発表しましたが、そのなかで、「世界のライドシェア市場の規模は2020年までに倍増する」「ユニコーン企業(巨額の利益を生むベンチャー企業)が次々に誕生している」と述べています。そのような巨額の利益を生むビジネスを日本でも自分たちに自由に行わせよという身勝手な主張です。

 安全をないがしろにして、特定企業の利益に奉仕するライドシェアの解禁を許してはなりません。


 5.地域公共交通確保に、もっと補助を


 バス路線が廃止され、タクシーも少ない過疎地域において住民の移動手段がないことがライドシェア導入の口実とされています。こうした地域で交通を確保することは地域公共活性化のためにも重要な課題です。

 バス路線の維持や乗合タクシー等の導入について補助金が出る制度がありますが、決して十分とはいえません。国の補助に加えて地方自治体が相当な財政措置を講じて、なんとか公共交通を維持しています。しかし自治体の財政事情はどこでも厳しく、住民が便利に使える交通網を維持するには足りていません。

 そのなかでも多くの努力が行われています。宮城県仙台市太白区秋保町では、自交総連の組合が倒産会社を引き継いで自主的に経営しているタクシー会社が、デマンドタクシーの運営を市や地域住民と協議して実現しました。予約制の乗合タクシー「ぐるりんあきう」は、2023年4日から実証運行を実施しており、幼稚園や病院通いの住民に喜ばれています。

 こうしたとりくみが、住民にとって十分に便利で使い勝手がよいものとなるように、現在の補助制度を抜本的に充実させ、公共交通が持続的に運行できるようにしていけば、危険なライドシェアに頼る必要はなくなります。


 6.ライドシェアと誤解される「自家用有償旅客運送」


 政府の『規制改革推進会議』が2023年12月26日に決定した「中間答申」において、タクシー事業者管理のもと行われる自家用車・一般ドライバーを活用した日本型ライドシェアや、自家用有償旅客運送制度(道運法第78条第2号・3号)の運用緩和・拡大を進めることが示されました。

 ここで、「日本型ライドシェアや自家用有償旅客運送ってライドシェアとは違うの?」という疑問が出てくるかもしれません。【第二種免許の資格を持たない者が自家用車を使って有償で利用者を目的地に運ぶ】という点が共通しており、政治家やマスコミの間でも混同されていたり、恣意的に単語を使われることがあります。

 それぞれの仕組みや、今どのような制度緩和がなされようとしているか解説します。


 自家用有償旅客運送制度をめぐる変遷

 「自家用有償旅客運送」(右)とは、交通空白地の輸送手段の確保が必要な場合に、市町村やNPOが自家用車で運送サービスを提供することで、あくまで限定的、例外的に認められている営利を伴わないボランティアによる運送方法です。

 ライドシェアとの違いとして以下があげられます。

〇 運営主体に運行責任があるか否か。
 ライドシェア→仲介アプリを提供するのみで負わない
 自家用有償旅客運送→非営利団体が負う


〇 運行区域の制限があるか否か。
 ライドシェア→無制限
 自家用有償旅客運送→バス・タクシー事業が成り立たない過疎地に限定


〇 国内の現行法で可能か否か。
 ライドシェア→「白タク行為」として道運法で認められていない
 自家用有償旅客運送→道運法第78条により認められている


 このように現行ではライドシェアとはまったく異なるサービスですが、コロナ危機以前から「自家用有償旅客運送」の運用は断続的に拡大されており(2020年5月・2023年4月)、例外の枠を外そうとする動きが政府内でありました。
 そうした中で、前述の「中間答申」において、都市部など運行区域の拡大・委託により営利企業の参画を可能とするなど「自家用有償旅客運送」の無制限な制度改革を行うという方針が示されました。

 この動きについて自交総連は、「タクシーには安全確保のために道路運送法で厳格な安全規制がかけられている。そのため、ライドシェア解禁派はまず、同法第78条で限定的な運用とされている『自家用有償旅客運送』の規定に、ライドシェアの突破口となるいくつもの施策を盛り込んで、白タク規制を緩和・撤廃しようとしている」と危惧しています。


 安心・安全を崩壊させる「日本型ライドシェア」

 2024年1月10日、東京タクシー・ハイヤー協会は、タクシー会社を事業主体とする「日本型ライドシェア」を同年4月から実施すると公表しました。
 これは、第二種免許を持たない一般ドライバーとパート等の雇用契約を結び、都内で地域・時期・時間帯を限定し、自家用車による運行を行うもので、政府の方針を丸呑みにしたものです。

 このような制度導入は「地域交通の担い手・移動の足の不足」の根本原因であるタクシー乗務員の劣悪な労働条件から目をそらすばかりか、日本国内での輸送実績づくりを狙うライドシェア解禁派を援護することになるものです。

 自交総連は、安心・安全を崩壊させる「日本型ライドシェア」を行う事業者団体の姿勢と対峙し、ライドシェア反対の共同とタクシー乗務員の大幅な賃金・労働条件の改善を求めていきます。



 ライドシェア新法への警戒

 ライドシェアの解禁推進派である小泉進次郎元環境相は、「日本型ライドシェアで供給力が満たされても新法をやる」などと発言しており(1月16日開催の神奈川県タクシー協会の賀詞交歓会にて)、まったなしの状況となっています。

 自交総連は、ライドシェアの危険性を宣伝行動を通して社会に訴えるとともに、多くの利用者が求めているのはルールなき白タク=ライドシェアではなく、安心・安全なタクシーの充実であることに確信を持っています。

 現在、ライドシェア阻止運動として、「安心・安全な地域公共交通を守る請願書」に全力でとりくんでいます。
 詳細はこちらのページをご参照ください。



自 交 総 連