自交総連は、10月1日から実施された運賃制度の改定についての通達に対し値下げ競争に拍車をかけるとして、9月27日、国交省に対し、抗議の見解を発表しました。
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規制緩和の増車によりタクシープールにはあふれるほどの客待ちタクシーが並ぶことに=大阪 |
1.国土交通省は9月16日、「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃及び料金に関する制度について」及び「一般乗用旅客自動車運送事業の運賃料金の認可の処理方針について」を改正する通達を発し、10月1日から実施するとしている。
この通達は、運賃多様化の名のもとに、運賃制度の規制緩和をいっそう拡大し、すでに深刻化している運賃値下げ競争に拍車をかけるもので、タクシー労働者の労働条件悪化はもとより利用者・国民にも差別と混乱をもたらすものであり、到底容認できない。
2.運賃関係通達の概要は以下のとおりである。
(1) 時間制運賃について、距離制によりがたい場合でなくても認めるとしたうえ、初乗り30分(現行1時間)、以後10または15分(同30分)の設定を可能とする。
(2) 定額運賃の適用を拡大し、適用施設の基準を「恒常的に相当数の不特定多数の集客が見込まれる施設」というあいまいな基準に緩和し、運賃も「5000円相当以上」を「3000円、5000円等を目安」とする額でも認める。
(3) 営業的割引の多様化として、最大3割引の大口割引をはじめ、最大5割引の主催旅行割引(旅行会社との契約で割引くもの)・観光ルート別運賃、さらに特定時間帯割引、長時間割引等の各種割引を認める。
(4) 運賃認可の処理期間について、現行4〜6か月を3か月に短縮し、各種割引のうち減収割合が1割以内と確認された場合は原価計算書の添付を省略する。また、運賃以外の事業の許可、事業計画の変更等の許可についても、標準処理期間を現行の2分の1(4〜6か月を2〜3か月)に短縮する。
(5) 自動認可運賃の幅(上限から約10%)、自動認可に該当しない運賃の申請の処理は現行方式が維持されている。
3.このような改定は、次に示すようなさまざまな問題を引き起こす。
距離制運賃や定額運賃が、きわめてあいまいな基準のもとで設定できることとなり、無原則に適用が拡大され、事実上の運賃値下げのために利用されることが予想される。
3割引の大口割引や5割引の主催旅行割引などは、大口顧客や旅行会社という「強者」については原価を大幅に下回る運賃をも認めることになり、一般の利用者との間での不当な差別的取扱いそのものである。大口顧客という地位を利用した値引き要求などの不公正取引の拡大にもつながる。
各種運賃・各種割引による「多様化」は、メーターで運賃が決まるというタクシーの基本を空洞化し、正規の認可運賃からはずれた値引きも容易に行われやすくするなど、違法な運賃ダンピングの横行も予想される。将来的に相対運賃への道ならしにさえつながりかねない。
原価計算書添付の省略、標準処理期間の短縮は、現在でも個別の内容が非公開で十分審査されているか不明確な運賃認可の処理をいっそう簡素化・拙速化するもので、「安易な運賃値下げを安易に認める」ことになり、行政責任の放棄につながる。
4.規制緩和後2年半が経過するなかですでに各地で実証されているように、運賃の値下げ・割引などは、それを実施した会社にごく一時的に一過性の増収をもたらしたとしても、すぐに他社が追随する結果、地域全体としての需要喚起どころか、地域全体としての減収の効果しかない。
タクシー労働者は大幅な賃金の低下となり、生活保護基準以下、最低賃金以下という、人として最低限の文化的生活すら維持できない悲惨な状況に追い込まれている。その影響は、交通事故の増加、タクシー乗り場でのトラブル、不法な客引き行為の横行など、タクシーの安全と安心を失わせる形で利用者・国民にも及びつつある。
今回の改定は、こうした問題をいっそう拡大し、タクシー労働者にはさらなる労働条件悪化、利用者には混乱と差別を押し付けるものである。「規制改革・民間開放推進3か年計画」で、タクシー運賃のいっそうの規制緩和を求められたことに安易に迎合して、運賃認可制を掘り崩し、骨抜きにするものにほかならない。
自交総連は、事業者に対しては、利己的な運賃値下げは結局は何の利益ももたらさず、タクシー事業全体の疲弊・崩壊へつながることを訴え、新基準を利用しての運賃値下げ・割引競争の自制を求める。
国土交通省に対しては、道路運送法改正時の国会決議にも反して、公正な運賃制度維持、最低労働条件確保の義務を果たそうとしない姿勢に抗議し、安全・安心を根幹とする健全なタクシー事業の発展に資する運賃認可制度の基本に立ち返ることを求めて、ひきつづき行政の責任を徹底的に追及していくものである。
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