I.減車闘争の推進と戦術対応の基本的姿勢
現局面におけるタクシー輸送の安心・安全、確実な労働条件改善の確保を焦点とする最大の課題は、地域協議会において合意された特定事業計画をふまえ、その計画と相まって期待される「単独又は複数の事業者による自主的かつ協調的な減車」を確実に実行させることにある。このため、特定事業計画認定後いっせいに動き出すと想定される減車の具体的推進に関わっては、以下の事項をふまえ対応していく。
(1)減車の実現と企業の社会的責任の追及
地域協議会で合意された「適正と考えられる車両数」にもとづく減車の実現は、タクシーに関係を有する地域の多様な関係者に対する最低限の社会的公約であり、その実現の可否は、タクシー経営者の資質のあり方と企業の社会的責任が鋭く問われる問題である。
したがって、すべての地連(本)は、経営者が地域公共交通機関の一翼を担う者としての責任の重さを自ら自覚し、即時、減車に踏み出すよう、労働組合として積極的な役割を担うことが重要である。
その際、減車によって、(1)税金、保険料、燃料など経費の節減につながり経営の効率化を促進できる、(2)台当たりの運収増加となり収支状況が改善できる、(3)賃金増と長時間労働抑制など労働条件の改善に寄与できる、(4)交通渋滞の減少に役立ち、地球温暖化防止の課題に貢献できる――などの効果をもたらすことに着目し、減車合意と即時実施を求めていく。
(2)実効的かつ即効性ある減車の実現と対応策
減車の具体的実施を想定した場合、事前に「経営の効率化と競争条件の公平化」や「合理的な雇用対策」などに関する対応策をまとめておくことが必要・不可欠である。
1) 遊休車両の即時減車と適正実働率の確保
2) 車両における勤務形態の改善、労働時間の適正化
「1車1人制から2車3人制へ」あるいは「2車3人制から1車2人制へ」など車両における勤務形態の地域的な統一改善策を提起すること。このことは、経営の効率化のみならず、労働時間の適正化にも大きく寄与する。
3) 新規雇用の一時凍結
【例】月の賃金が運収40万円未満40%(但し、残業・深夜手当は別途、法定通り支給)の歩合給制で、11乗務(所定労働176時間、残業労働22時間、深夜労働44時間)を勤務し、30万円しか運収が上がらなかった場合。
歩合給(300,000円×40%) |
120,000円 |
歩合給に対する時間外(残業)割増 |
3,333円 |
(120,000円÷実働198時間×割増率25%×22時間)
歩合給に対する深夜割増
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6,667円 |
(120,000円÷実働198時間×割増率25%×44時間)
賃金計
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130,000円 |
ところで最低賃金法は、オール歩合給制など「出来高払い制」の場合、比較する額は、『出来高制の賃金総額÷算定期間内の総労働時間』と定めている。(同法施行規則第3条の5)
また、『最低賃金に含めない賃金』を定め、臨時に支払われる賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金、時間外・深夜・休日労働に対して支払われる賃金の他、精皆勤手当、通勤手当、家族手当は算入されないとしている。
(最低賃金法第5条第3項、同法施行規則第2条)
歩合給の賃金額 |
120,000円÷実働198時間=606円 |
最低賃金額(大阪) |
762円 |
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II.減車闘争と最低賃金法違反の地域的一掃
タクシー活性化法成立に至る闘いを通じてたたかいとった国会の附帯決議や運用基準通達、さらには最低賃金法など活用でき得る積極面は、減車闘争の武器として上手に使いこなすことが決定的に重要である。
このため、減車闘争の具体的な推進に際しては、「最低賃金法違反の地域的一掃」と「違法な臨時・アルバイト雇用の是正、運転者規制の厳格運用と良質な労働力の確保」の2方面からのとりくみ強化をはかる。
(1)最低賃金法違反の地域的一掃と減車の有効性
最低賃金は、いうまでもなく「強行規定」であり、労使の力関係や経営の支払い能力に一切関係なく、すべての労働者に適用される。最低賃金は、現在、都道府県ごとに定められているが、時間給、日給、月給などの労働者はもちろんのこと、オール歩合給制や、仮にリース制であっても、その適用を免れることはできない制度である。
上記の計算式例では、大阪の最低賃金が762円であるのに対し、606円しか支払われないので、1時間に付き差額の156円、月額では3万888円を支払わないと最低賃金法に違反することになる。
このような最低賃金法違反は、経済不況と供給過剰状態の深刻化のもとで全国的な拡大傾向を示している重大問題である。こうした中で、最低賃金法の活用は底上げの有効な手段となり得るし、ただちに労働者の実利・実益に結び付く。このとりくみはまた、減車推進と低運賃競争の歯止めにも一定の役割を果たすことを重視し、地域的な運動として全力をあげる必要がある。
1) 違反の根本要因である累進歩合制度の廃止を重要課題と位置付け、“物取り主義”に陥らないよう留意する。
2) 違反の地域的一掃を現実的に可能とする施策は、減車の実現以外にはないことを重視したとりくみ対策を強化する。
3) 違反是正の意思がなく、減車にも反対し居直り的姿勢を取り続ける悪質経営者に対しては、労働・運輸行政へのいっせい告発など毅然たる対応手段で臨む。
この場合、国土交通省が、監査方針、行政処分基準等の改正を行い、最低賃金法違反(事業の健全な発達を阻害する競争行為)に対する処分基準を創設したことも活用する必要がある。
(2)雇用形態の改善
アルバイト、日雇いなど違法な雇用形態が、大都市・地方都市、郡部を問わず全国的に蔓延化している。
安心・安全の確保、公共交通機関としてのタクシーの健全な発展を阻害する要因は除去されなければならないが、国土交通省が出した通達では明確に「違法な雇用形態」の禁止が明記されている。
さらに、行政処分基準等の改正では、社会保険等未加入に対する処分基準を強化していることも注目すべきことである。
1) 職場・地域内の点検活動のとりくみを行い、違法な雇用形態の一掃あるいは正常な雇用への切り替えを行わせる。
2) 運転者登録制度の厳格な運用とチェック機能の強化を求め、運転者の資質向上と雇用の適正化をはかる。
【運輸規則第35、36条「運転者の選任」に関する運用通達】
「それぞれの事業者の事業の実態を十分考慮して、適切な数の運転者を選任するよう指導すること」
「日雇いまたはこれに類する不安定な労働条件の下に雇いいれられる者を、運転者として選任し及び乗務させてはならない」
「いわゆる定時制乗務員については、あらかじめ勤務日時を乗務割などで定めない者である場合には、実質的な日雇いであり違法と認められる場合が多いものと考えられる」
III.好機を逃さず、運動の力で大幅減車の実現を
好機を逃さず、大幅減車を実現する最大の保障は、2010年春闘における産業別統一闘争の成功いかんにかかっている。
すべての組合員が、一心組織力、みんなで要求・総決起を合言葉に、持てる力をフルに発揮し、大幅減車を必ずものにする決意で臨む必要がある。
3・4中央行動、続く4月段階の大幅減車実現全国統一ストライキの成功をめざし、固い意思統一を成し遂げることがまず何よりも不可欠である。
規制緩和実施後丸8年が経過したが、2010年春闘における減車闘争の実現をもって、これまでの奮闘が実り、やっと賃金減から賃金増へと転換できる大きなチャンスをつかむことができる。
多くのタクシー労働者の“多すぎるタクシーを減らし、生活できる賃金を”の期待に応え、不退転の決意を持って闘いの先頭に立つことが求められる。
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