交通政策審議会・タクシーサービスの将来ビジ ョン小委員会報告についての自交総連の見解 |
2006年7月7日 自交総連 |
1.国土交通大臣の諮問機関である交通政策審議会・タクシーサービスの将来ビジョン小委員会は7月7日、「総合生活移動産業への転換を目指して」と題する報告書をまとめた。
報告書の概要は次のとおりである。
タクシーを「地域に密着したドア・ツー・ドアの少量個別輸送を担っている公共交通機関」と明確に位置付けたうえで、今後その社会的重要性は高まるとして、その特徴を活かし、事業を活性化させるためには、公共性の高い「総合生活移動産業」へ転換を図る必要があり、国はそのための施策を行うべきであるというものである。
具体的施策としては以下の三つの柱をあげている。
@ 公共交通機関としての使命である安全・安心な輸送サービスの提供の確保=運転者の質の確保・向上のため運転者登録制度を政令指定都市に導入、高齢ドライバーの定年制導入など
A 多様化・高度化するニーズに対応したサービスの提供促進=利用者ニーズに即した事業者の多様な取り組みを後押しする施策など
B 渋滞・環境問題への対応=空車走行を抑えた効率的な走行を促進するためのGPS-AVM導入促進、乗り場管理の適正化など
2.この報告書がまとめられた背景には、次のような事情があった。
2002年2月の新道路運送法施行(規制緩和の実施)以降、タクシーは新規参入や増車で供給が増加する一方、需要は減少し、運賃値下げ競争も加わって、1台当たりの売上げが減少、タクシー労働者の賃金は大きく低下した。低賃金からくる長時間労働や乱暴運転などにより交通事故が増加し、サービスも低下、交通渋滞や環境への悪影響も目に余るようになり、マスコミにも大きく取り上げられるようになった。
国土交通省としても、その弊害と社会的な影響を無視できなくなり、事態改善のための方策を本小委員会に諮問したものである。
自交総連は、規制緩和の計画が具体化されたときから、タクシーの特性を無視した乱暴な規制緩和万能論を強く批判し、諸外国の事例もふまえて、規制緩和すれば起りうる弊害を明確に指摘してきた。
したがって、報告をまとめるにあたって本小委員会に求められたのは、私たち自交総連をはじめタクシー関係者の反対を押し切って規制緩和を強行した結果、弊害が指摘どおりに現実化してしまった事態についての真剣な分析・検証とタクシーの特性をふまえての改善方策の具体化であった。
3.その点で報告書は、依然として規制緩和の「効果が現れつつある」と強弁して政府・国土交通省の責任については十分な指摘がみられないものの、「全体としてむしろサービスの質・安全性の低下のおそれがあ」るとして、規制緩和が当初の目的を達成していないことを事実上認めている。さらに、タクシーにおいては、その特性から「市場の失敗」が存在することを認め、何でも市場任せにするのではなく「政府による適切な対応が必要とな」ることを指摘している。このことは、従来の規制緩和万能論の立場からの転換を政府に求めるものであり、新たな姿勢として注目できる。
さらに、タクシーサービスの質の確保のためには、「運転者全体の質の確保や向上」が重要であることを指摘し、運転者登録制度を全国的に導入するとして、当面、タクシー業務適正化特別措置法の対象地域を政令指定都市まで拡大することを提起したことは、自交総連が一貫して要求してきたタクシー運転免許の制定に至らないまでも、それへの一歩接近として評価できる。
また、具体的な施策としてあげられた監査の強化、労働関係法令違反への対応強化、累進歩合制の廃止の徹底、労働力コストを含めた運賃審査などは、従来から自交総連が求めてきたものであり、遅きに失したとはいえ、当然の指摘が実現したものである。
一方で、掲げられた課題の具体化は今後の施策にゆだねられており、抽象的な課題が提起されても、実際に実行される過程では不十分なものとされる恐れが強い。当初の目的にかなった実効ある施策が実現するように注視していく必要がある。
また、市場の失敗により問題のある事業者が市場に温存されないような仕組みを構築するとしながら、その具体策は、利用者が選択しやすい環境整備や事業者ランク制度に基づく優良事業者の公表など、実効性が感じられないものが多い。現実には「悪貨が良貨を駆逐する」といわれるように、法を守らずリスクを運転者に転嫁している悪質な事業者こそが勢力を伸ばしているのであり、こうした悪質事業者の公表や事業許可の取り消し、一旦事業許可を取り消されたものが代表者の名前だけ変えて営業をつづけるような脱法的手法の禁止などの具体的対策が求められている。
こうした点については、今後も必要な改善を求めていく必要がある。
4.以上のように報告書は、不十分な点はあるものの、従来の政府の審議会の立場からは、より一歩踏み込んだ内容になった。
これは、タクシーの規制緩和が強行されて以来、その現実にあきらめるのではなく、不合理を指摘し、異議を申し立ててきた多くのタクシー労働者・関係者の抗議の行動が反映したものといえる。自交総連は、規制緩和の弊害の暴露、世論の構築、タクシーにおける規制緩和万能論の誤りを指摘する理論闘争などの面において、規制緩和の誤りを正す先頭に立ってきた。全国の組合員の奮闘が、政府の審議会をして、事実上の規制緩和の見直しという従来にない報告書を出さざるを得ないところまで追い込んできたものであり、改めて運動の正しさを再確認することができる。
自交総連は引き続き、タクシー問題の根本的解決のため、運転者の質の確保・向上に不可欠なタクシー運転免許法制化の実現をめざすとともに、本報告書に示された施策については、その実効性の確保、不十分な点の改善を求め奮闘するものである。