2007年1月31日 自交総連第29回中央委員会
2006年6月以降、タクシー運賃改定申請が各地で出され、同年11月までに長野、大分、長崎、秋田、東京特別区などでは申請率が地区内の7割の台数を超え、運賃改定手続きが開始されることになった。改定申請は各地に広がり、全国的な動きとなっている。
運賃改定が実施されることになれば、1995〜96年にかけて全国的に実施された改定以来、実質値上げとしては11〜12年ぶりのこととなり、かつ、2002年の規制緩和以来、新しい制度のもとでの初めての運賃改定となる。
運賃改定は、タクシー労働者の労働条件及び利用者への安全・サービスのあり方にも極めて重要な関わりをもった問題であり、自交総連は、以下のような立場でこの問題に対応していく。
タクシー労働者の賃金は歩合給なので、その額は運送収入によって左右される。運送収入は運賃水準に大きな影響を受ける。すなわち、賃金と運賃額とは極めて密接な関係があることは言うまでもない。
運賃改定によって運送収入(1台当たり、運転者一人当たり)が上がれば、当然、賃金も上昇することとなる。ところが、かつてのタクシー業界では、運賃改定時に運送収入額の読み替えや足切り引上げなどのスライド賃下げが多くの事業者によって強行されていた。
また、運賃が上がっても、規制緩和のもとでバラバラ運賃が拡大したり、増車で1台当たりの乗客が減れば、運送収入が増えずに減ることもあり得る。
これでは労働条件改善どころか改悪になってしまう。
このようなことが起こらないように、運賃改定に際しては、(1)増収分が確実に労働者に還元されること、(2)その前提として改定率に見合う増収とするための環境整備を行うこと、の2点が堅持されなければならない。
タクシー事業者は、運転者の労働条件改善を主要な理由とした運賃改定を申請しているが、規制緩和のもとで需要を無視した身勝手な増車と運賃値下げを行った結果生じた減収の責任を、安易に利用者の負担のみに転嫁して解消することは許されない。みずから減車をはじめとした事業の効率化に努め、申請に付した理由を誠実に履行することが事業者の社会的責任である。
運賃改定に当たっては、賃率変更や足切りの引上げなど一切の改悪を許さず、改定前と同一の賃金体系を維持(ノースライド)した上で、重点改善要求の実現を求めていく。
労働組合のある職場では、労働組合が会社の改悪提案を受け入れて新たな労働協約を締結しない限り、現行の労働条件が継続し、ノースライドとなる。したがって、最も重要となるのは、改悪を許さないという各職場における労働組合の断固たる闘いである。
事業者の側には、かつてのように事業者団体を挙げてスライド賃下げを指向する動きは見られないが、決して油断はできない。
スライド賃下げを強行しかねない非常識な事業者が依然として多数存在しているうえ、さまざまな理由をつけて、還元率・額を少なくしようとする動きが出てくることも当然予想される。とくに、規制緩和による過当競争状態のもとで、会社全体としての総賃率の上昇を嫌って、営収が低い人だけでもスライドしたいとか、足切り額や累進歩合の刻みを変えたいなどさまざまな提案をしてくることは当然予想されるので、そのような動きを許さない毅然とした対応を堅持することが大切である。
また、社会的水準から大きくかけ離れた労働条件の改善のためには、ノースライドのみで足りるわけではなく、プラスアルファーの改善を求めていくことが重要である。各地方や職場の条件に応じて重点改善要求を設定し、たとえば各種の手当の増額や労働者負担となっている負担金の軽減等、積極的な労働条件改善につながる改善をかちとることが重要である。
以上の要求を確実に実現するために、運賃改定が予想される地域では、07春闘時に、ノースライドプラス重点改善要求を確保する個別の労使間協定を締結することをめざす。
また、地方・地域の実情に応じて、事業者団体と地連・地本の間、あるいは労働団体の共闘を追求して集団交渉を行い、団体間協定を結ぶことをめざす。
今回の運賃改定に当たって国土交通省は、査定原価の公開は行う方向としつつも、ノースライドなど労働条件の問題については労使で決めることで行政は関知しないという態度をとっている。従来、運賃改定時に事業者に対して出していた、運賃改定の趣旨にそって労働条件改善をすることを指示する通達等についても出さない姿勢をみせている。
しかし、規制緩和されたことを口実にして、労使の問題だから何もできないという言い訳は許されない。規制緩和された道路運送法のもとでも、運賃改定は依然として国の認可事項である。改定に当たってその申請趣旨を事業者に守らせるのは、国民から認可権を負託されている国の責務であり、消費者・国民に対する責任でもある。
労働条件改善のために改定を認めてくれといった事業者が、いざ改定された後にはスライド賃下げをして労働条件を改悪し、不当な利潤を懐に入れるようなことは、運賃は適正な原価と利潤を超えないものと定めている道路運送法の趣旨に反する行為であり、行政がそうした行為を見て見ぬ振りをすることが許されるはずがない。
そのような労働条件の改悪を放置し、またそのような事業者を放置することは、交政審タクシー小委員会報告が、タクシー運転者の質の向上を提起したこととも、問題のある事業者が温存されてしまうことを憂慮して指摘したこととも、まったく逆行することになる。
国土交通省の極めて不当な姿勢を許さず、きちんと責任を果たすよう、本省及び各運輸局・支局を厳しく追及していく。
運賃改定についての基本通達(平成13.10.26 国自旅第101号)で、明記している「運賃改定の手続・内容についての透明性を図る」「利用者等への情報提供による事業のいっそうの効率化を促進する」との趣旨を徹底させ、同通達別紙5で情報提供ガイドラインとして示されている運賃改定申請時及び認可時の情報提供については、最低限の責任として確実に実施させる。そのうえで、運賃改定時の通達・指示文書等の発出を求めていく。
今回の運賃改定は、規制緩和後初めての上限運賃の改定として実施されることになる。現行の規定では、運賃改定が認められる場合には、まず運輸局長が上限〜下限運賃の自動認可運賃を公示し、それから2週間以内に事業者は自動認可運賃内で申請額を変更することができることになっている。
改定率を上回る運賃改定を申請していた事業者が、一転して下限運賃に申請し直すことも制度的には可能なしくみとなっているし、従来どおり、下限以下の運賃でも(別途査定はされるが)申請することができる。
しかし、コスト負担が限界で値上げせざるを得ないということで申請を出していた事業者が値下げするというのでは、負担は限界ではなかったということになり、利用者に対しても説明できない矛盾が生じることになる。
事業者は、利己的な目先の利益にとらわれることなく、事業全体の健全な発展を展望して、値下げ競争は自制し、すべての事業者が上限の運賃で営業することが求められる。
各職場・地域・地方では、個別あるいは集団交渉で、事業者に上限運賃での申請・営業を事前に約束させる協定を求めていく。
運賃が改定されても、タクシーの供給過剰状態が放置されたままなら、必要な増収が得られないことは明らかである。
タクシー運賃は、道路運送法で「能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものを超えないものであること」(9条の3)と規定されている。需要を無視し、実車率も実働率も大幅に低下しているにも関わらず、無駄な車両を大量に保有し続ける経営が「能率的」でないことは明らかであり、運賃改定を申請する以上、事業者は自らの経営を効率化する努力が求められる。
この点でも、各職場・地域・地方では、個別あるいは集団交渉で、遊休車両の即時減車はもとよりのこと、事業者に需要に合わせた減車と増車競争の抑制を求めることが必要・不可欠である。
個別事業者の運賃額の選択や増減車についての国土交通省の姿勢は、規制緩和されたのだから一切の指導はできない、事業者の自主的判断に任せるというものである。
しかし、利用者・国民に負担を求める運賃改定に当たって、道路運送法の趣旨を実現するために、行政がその役割を果たすのは当然であり、可能な権限・手法を用いて必要な責任をまっとうしていくべきである。
運賃の値下げや増車を行う事業者は、それに必要なコストの圧縮をほとんどすべて労働者の労働条件を切り下げることで得ている。逆に言えば、労働者に劣悪な労働条件を押し付けることができるからこそ、値下げや増車に走れるのである。しかも、その劣悪な労働条件というのは、道路運送法・労働基準法・最低賃金法・改善基準告示などの法令に違反するものである。
増車する事業者は、車両数に見合った運転者を確保していない(運輸規則35条違反)ゆえに、既存の労働者に長時間労働や連勤をさせている(改善基準違反)場合がほとんどであり、値下げをする事業者は、名義貸し(道路運送法違反)や累進歩合制度(改善基準違反)を採用し、長時間労働と低賃金を押し付けている(改善基準・最低賃金法違反)からこそ値下げができるのである。
必要な数の運転者の選任や違法な労働条件の是正をさせれば、乱暴な増車や値下げは事実上できなくなるわけであり、国土交通省は厚生労働省とも連携して、違法行為を一切許さないという実効ある対応をする必要がある。
とりわけ、利用者・国民に負担を求める運賃改定の機会に違法行為を放置することは、結果的に、無駄なコスト負担や安全低下のリスクを利用者に負わせることにつながる。世論の喚起も含めて行政当局が必要な責任を果たすように求めていく。
以上の目標を実現するために、具体的に次に掲げる方向でとりくむ。
各地連・地本は、07春闘に合わせて、運賃改定問題の学習にとりくむ。
とくに、前回運賃改定がされてから10年以上が経過し、組合員及び幹部の多くが運賃改定そのものを経験したことがなく、また規制緩和後初めての改定であることに留意し、基礎的な問題からていねいに学び、全組合員が決起できるようにすることが重要である。
同時に、未組織・未加盟の仲間に運賃改定問題の重要性を訴える宣伝を重視する。この問題は、ノースライドの獲得をはじめ、自交総連と一緒にたたかうことが実利・実益に直接結びつくことから、組織拡大の絶好のチャンスでもあり、積極的な計画を立てて打って出ることが重要である。
また、利用者・国民に対しても、規制緩和の弊害や劣悪な労働条件の告発とあわせ、運賃改定が労働者の労働条件改善、ひいては安全とサービスの向上に資するものとなるように訴える宣伝をしていく。
総連本部は、運賃改定問題の資料や宣伝物を適宜準備する。
運賃改定が予想される地域では、職場ごとに、運賃改定時のノースライドプラス重点改善要求を事前に約束させる個別の労使間協定を締結する。
また、地方・地域の実情に応じて、事業者団体と地連・地本、あるいは共闘する労働団体の間で集団交渉を行い、団体間協定を結ぶことをめざす。
協定は以下の基準を満たすものとする。
1.運賃改定の前提として、事業の効率化に努め、不必要な遊休車両はもとより適正台数をめざして減車し、増車は行わないこと。 2.運賃改定に至った申請理由及び労働条件の改善等における概要について説明する場を設けること。 3.運賃改定時にはノースライド(歩合率、足切り額等の賃金支給基準の変更を行わない)とすること。運賃改定の趣旨にしたがって、積極的な労働条件改善につながる手当の増額、負担金の軽減等の改善を行うこと。 4.改定運賃が公示された際には、上限運賃を申請すること。 |
各地連・地本は、運輸局(支局)交渉を計画して実施する。
その際、本方針で示した運賃改定に対する自交総連の態度をよく理解し、行政当局の責任を的確に指摘して追及していく。
総連本部では、07春闘の統一行動時をはじめ、適当な時期に国土交通省、厚生労働省その他の省庁交渉を計画していく。
要請課題は以下の点を重視する。
1.運賃改定申請の概要、改定理由を公表すること。 2.上限運賃改定に当たっては実績・申請・査定原価を公開すること。 3.運賃改定申請の趣旨をふまえ、運転者の労働条件改善が申請どおりに実行されるよう、事業者及び事業者団体宛の通達を発すること。 4.道路運送法上の運賃の趣旨をふまえ、能率的な経営が行われるよう、事業者に対し必要かつ適切な指導・要請を行うこと。 5.道路運送法や労働基準法等の法令違反を許さず、とくに増車や値下げを行う事業者については、法違反を前提に不当な競争を引き起こすものでないかを厳しく監査・監督し、違法行為を摘発すること。とくに、運転者の選任(運輸規則違反)、労働時間(改善基準違反)、累進歩合の禁止(改善基準違反)、低賃金(最低賃金法違反)、名義貸し(道路運送法違反)などについて重点的に摘発すること。 6.運賃改定のフォローアップとして、改定後の経営内容を調査し、改定の趣旨が実行されているかどうか公表すること。 |
規制緩和による需給バランスの崩壊や非効率的で安全を無視した経営の横行などの実態を明らかにし、運賃改定問題についての利用者・国民の理解を深めて、事業者や行政の姿勢にも影響を与え、事業の健全化・労働者の労働条件改善につなげていくため、民間公聴会等の開催を地方ごとに計画していく。