2015.12 自交総連政策委員会
も く じ
1 新たな政策提言の意義2 タクシー事業をめぐる今日の情勢 3 タクシー政策の新たな展開 (1) 安心・安全、利便性確保、それを担保する運転者の労働条件確保 (2) タクシー運転免許の実現にむけて |
自交総連は結成以来、タクシー労働者の社会的水準の労働条件確立、安全で利用しやすいタクシーの実現を掲げて運動にとりくんできた。タクシー労働者の賃金は、社会的水準の半分程度の状態におかれており、この改善が最も切実な要求だからである。
賃金を改善するためには、職場で要求を掲げて資本とたたかう経済闘争が必要である。同時に、タクシー労働者の賃金を規定している一人あたりの運送収入の増加をはかることも欠かすことができない。労働者が人並みの賃金を得られるための経済的諸条件をつくりださなければならない。
その条件をつくるのが政策闘争である。このため自交総連は、時機に応じて以下のような総合的な政策を提起してきた。
「安全で利用しやすいタクシーをめざす6項目提言」(1993年)
「地方都市・郡部におけるタクシーのあり方についての提言」(1996年)
「タクシー運転免許構想(案)」(1999年)
「もうひとつのタクシー 確かな再生へ」(2006年)
これらの政策を活用して、賃金・労働条件を破壊する最大の攻撃といえる規制緩和に対しては徹底的にたたかい、タクシー活性化特措法の成立(2009年)による規制緩和政策の実質的な修正という成果をかちとった。
現在、タクシー労働者をとりまく情勢は、新たな岐路にさしかかっている。
すなわち、規制緩和による安心・安全と労働条件の深刻な破壊に対し、タクシー活性化特措法による規制強化への転換を実現したが、減車や労働条件改善が十分には進まず、その不備を補うとされた同法改正(2014年)も実効性を発揮できていない。一方で、急速な高齢化などの危機的状況が深刻化、「白タク」合法化などの動きもある。
こうした中で、特措法にみられるような規制緩和の部分的な手直しという路線を超える新たなタクシー政策の方向を提起し、課題である運転者の労働条件改善をはかり、タクシーの安心・安全を強化することが求められている。
自交総連は、提起した政策を労働者・国民の中に広げて理解を得、その実現に全力をあげる。
タクシー事業が、健全かつ持続可能なものとして成立し、発展していくためには、良質なタクシー運転者の存在が必要であり、それを担保するには需給調整規制と運賃規制が不可欠である。2002年に実施されたタクシーの規制緩和は、こうしたタクシーの本質的な特性を無視したものであり、短期間で失敗が明白となった。国土交通省はタクシー政策の見直しを余儀なくされたが、そこには、自ら行った規制緩和政策への反省を欠くという根本的な欠陥があった。そのため、対策が対症療法的なものにとどまっている。
見直し政策の欠陥は、改正タクシー特定地域特措法による特定地域の指定に伴って如実に現れている。特定地域候補が極めて限定的に絞られたうえ、候補となった地域でも、事業者自身の反対で地域協議会が特定地域指定に同意しない地域が生まれた。特定地域に指定された後も、実際に車両数の削減や営業方法の制限が実施されるためには高いハードルがあり、実効性は乏しいといわざるを得ない。準特定地域にとどまった地域でも、新たな減車等を進めるには困難が予想される。
タクシー運転者の労働条件を改善するためには、運転者一人あたりの運送収入増が不可欠であり、そのためにはタクシーを減車しなければならない。規制緩和で増えすぎ、さらに需要の減退によって大幅に供給過剰となっているタクシーの減車は、引き続き最重要の課題として追求されなければならない。
行政や事業者の中には、適正化(減車)の作業は一段落したので、あとは活性化(需要=利用者の増加)にとりくめばよいとする姿勢がみられるが、実車率が依然30〜40%台であることをみても、さらに減車が必要なことは明らかである。
減車の実効性を確保するためには、特定地域指定基準の見直し等が必要であるが、同時に、現行の特措法の枠組みの中では、本来求められる減車が十分に進まないことも直視する必要がある。適正なタクシー台数へ減車するためには、事業者の自主性やごく限られた地域のみに適用される措置に委ねるのではなく、運転者の数による規制=タクシー運転免許制度を本格的に検討する必要がある。
改正特措法の国会附帯決議で指摘された、歩合給と固定給のバランスのとれた給与体系の再構築、累進歩合制度の廃止、事業に要する経費を運転者に負担させる慣行の見直し等、労働条件に直接かかわる施策は積極的に進めるべきであり、国土交通省・厚生労働省にはその責任がある。
規制緩和の見直しを敵視し、再び規制緩和の方向へ逆戻りさせようとする動きが強まっている。
規制改革会議は、改正タクシー特定地域特措法について、経営の自由を制限する「強制減車」や「強制値上げ」などと非難を加え、権利制限は最小限にすべきだとする意見書を出し、これに国土交通省を従わせ、特定地域候補を29地域にまで絞り込ませた。これは、規制改革会議自身が旗を振って無謀な規制緩和を推し進め、タクシー事業に混乱をもたらしたことをまったく反省せず、規制強化を敵視し、労働者の労働条件改善を妨害するものである。
また、大阪市と大阪府が共同で提案した「タクシー特区構想」は、タクシーの自由化特区をつくって、台数や運賃の規制を除外し、規制緩和に戻そうというものである。
公定幅運賃制度による下限割れ運賃の規制や最高乗務距離の制限について、一部の事業者が利己的な利益のために、規制の適用を逃れようと提起した訴訟で、事業者の言い分を認める判決・決定が出される事例が相次いでいる。事業者が主張する「営業の自由」を無批判に認め、公共の福祉より上に置き、原告事業者の過酷な労働条件等の実態をみようとしないのは、司法の誤りである。
さらに、米国に本拠を置くウーバー(Uber)、リフト(Lyft)などのスマホ配車による自家用車を活用した移動サービスを行う企業が世界的に急速に拡大し、各地で摩擦を起こしている。日本でも、ウーバーが2015年2月に福岡で社会実験を試みた(国土交通省の要請で中止)ほか、楽天がリフトに多額の出資を行い、ライドシェア(相乗り)の実施をもくろみ、ソフトバンクが配車アプリのグラブタクシー(Grab Taxi)に出資をしている。ライドシェアは、一般ドライバーが自家用車を運転し、他人を輸送するもので、道路運送法に反する無許可のタクシー=白タクに他ならない。
しかし、楽天の三木谷社長が代表理事を務める新経済連盟は、規制改革会議等に働きかけ、道路運送法を改正してこれを合法化することを要望している。同連盟は、新自由主義の経済政策を掲げ、医薬品のインターネット販売を強引に解禁させた実績があるなど、その影響力は軽視できない。
15年10月、国家戦略特区諮問会議で安倍首相が、過疎地での自家用車の活用を進めると発言、公共交通空白地域を抱える地方が導入に手を挙げ、特区でのライドシェアの解禁が現実化する危険性が高まっている。
ライドシェアが実施された世界の都市では、事故処理や運転者による乗客への暴行などの問題が噴出している。行政当局がライドシェアを禁止すると、欧州ではEUの規定違反だとして企業が国・自治体を訴えるという例も発生している。現在交渉中のTPP(環太平洋経済連携協定)にわが国が参加する事態になれば、TPPのISD(投資家と国の紛争解決)条項をつかって、道路運送法の規制が非関税障壁であり、投資家の利益を不当に侵害しているとして訴えられ、米国にある仲裁裁判所の判決で白タクが合法化されてしまう危険性がある。
安倍内閣の下で息を吹き返し、新たな規制緩和を狙う勢力と対決し、改めて規制緩和による運転者の労働条件悪化、安全性、利便性の低下、環境への影響などの害悪を利用者・国民に訴えていく必要がある。
自公連立政権による大企業優先の経済政策のもと、地方・郡部では人口の減少、若年層の流出、急速な高齢化が進行し、地域経済の疲弊化も進んでいる。
社会生活の重要なインフラである公共交通は、利用者の減少、運賃の上昇、運行間隔の拡大、さらなる利用者の減少という悪循環に陥り、鉄道の廃線、バス路線の縮小が進み、自家用車がなければ移動できない地域が広がっている。車を運転できない青少年やお年寄り、障害者、病人は「交通難民」となり、学校、病院、買い物にも行けないという事態が生じている。
路線バスが撤退してしまった地域では、タクシーが唯一の公共交通機関となっているが、そのタクシーも経営が維持できなくなり廃業してしまう地域も少なくない。
住民の移動を確保するために、地方自治体がコミュニティーバス・乗合タクシー・デマンド交通の運行、学校や施設の送迎などに乗り出している。地元のタクシー会社と連携している事例も多数ある一方、NPOの自家用有償輸送に頼らざるを得ない地域もある。
こうした窮状に付け入るように、過疎地域の特区でライドシェアを導入し、全面的な解禁の突破口にしようとする動きも強まっている。
国は、人口の減少、過疎化、地域崩壊などに危機感をもって交通政策基本法や地域公共交通活性化法などで対策を講じる姿勢をみせてはいるが、その内容はコンパクトシティー化として一定の範囲に人口を集めて過疎地は無人化するなど、地域住民の切り捨てにもなりかねない危険性もあり、十分な対策とはなっていない。
タクシー事業が、地域に残された公共交通機関として、乗合タクシー、自治体の送迎バスの運行などを担い、住民の移動を助ける役割を果たしていくことが今後いっそう重要になってくる。それはまた、タクシー事業を維持・継続していくためにも欠かすことのできない事業収入となる。こうした事業を行っていくためには、適切な補助金が不可欠である。地方自治体・国に対して公正で適正な補助の増額・支出を求め、地域公共交通を維持していかなければならない。
@ 地域協議会を権威ある機関として発展させる
利用者・住民、事業者、労働者、行政が参加する地域協議会をタクシー委員会に発展させ、需給調整、運転者の数、運賃、交通計画などを決めて実行できる機関とさせる。 |
A 公共交通を担うタクシーの役割発揮
1) 総合的な交通政策とタクシーの位置付け
都市部では、総合的な交通政策の中にタクシーを位置付けさせ、自家用車乗り入れ規制など公共交通中心の政策を行わせる。タクシーの優先交通権を確立し、災害時の交通確保に役立つ計画をたてさせる。「ライドシェア」などの白タク合法化を阻止する。 |
2) 住み続けられる街づくり、地域への貢献
郡部では、住み続けられる街づくりのために住民の移動を保障する政策の中で、乗合タクシーや施設への送迎などにタクシーを活用させる。事業を持続するための補助金の支出、運転者の労働条件が保障できる公正な入札・事業委託制度を確立させる。 |
3) 移動制約者の交通権を保障するタクシー
移動制約者の交通権を保障するため、障害者、高齢者、要介護者をはじめ、通院や妊婦、保育園送迎、乳幼児同伴など対象者の範囲を広げて、国と地方自治体が運賃を補助する制度を拡充させる。 |
B 適正な原価、社会的水準の賃金を担保するに足る運賃の確立
1年もしくは一定期間ごとに運賃を見直し、適時・適切な運賃改定が行われるようにする。運賃原価には標準的な運転者人件費を含み、運賃改定時には確実に労働条件が改善されるようにさせる。同一地域同一運賃の原則を確立させる。 |
C 「企業の社会的責任(CSR)」の確立
タクシー事業者は、公共交通機関を担うものとして責任を自覚し、無秩序な増車や値下げなどを行わない。安心・安全、利便性、サービス確保のために、運転者の労働条件改善に努め、労使で話し合って労働条件を決めていく。 |
D 社会的水準の労働条件確立
若い労働者がタクシーに入ってくる魅力ある労働条件を確立する。法違反の一掃をはかり、労働時間の規制、働くルールを確立し、差別のない職場をつくらせる。運転者の年齢の上限を設けさせる。 |
さまざまな政策を実現していく上で、核となる戦略的な課題としてタクシー運転免許の実現をめざす。運転者の資格を国家資格とし、資質の向上をはからせる。タクシー運転免許は条件に応じて大都市部などで先行的に実施させる。 タクシー運転免許の実現に接近するとりくみとして、運転者登録制度の拡充をはかり、タクシー業務適正化特措法を改正し、運転者個人が運転者登録証を管理できるようにさせる。 |
@ 鮮明となったタクシー運転免許の優位性
特定地域候補となりながら、事業者の反対によって指定されない地域が生まれていることは、あくまで自社は減車したくないという身勝手な法人事業者が多いことを改めて示しており、法人事業者中心のタクシー政策を、このまま続けることの限界をも明らかにしている。
これに対し、運転者の質と数の規制によって必要な需給調整を(間接的に)行い、サービス向上など活性化もはかるという機能を持ったタクシー運転免許の意義、優位性が鮮明になってきている。
タクシーは、運転者と乗客がいれば基本的に成立する事業であり、法人事業者は、その間に立って、安全性、効率性、持続性を高めるために貢献してこそ存在意義がある。そのような役割を果たさず、運転者を搾取して利潤追求のみに走る事業者の横行を許さないためにも、法人事業者中心のタクシー行政を転換させなければならない。
「タクシー運転免許」は、運転者の資格を国家資格として、一定の難度の試験を行い、運転者の資質の向上、サービスの改善をはかるものである。タクシー運転者の地位を向上させ、事業者との関係でも対等に交渉できる優位性を高める。新しいタクシーを展望するために、改めてタクシー運転免許の意義を広く労働者・国民に訴え、理解を広げる必要がある。
「タクシードライバー法」を制定して全国的なタクシー運転免許制度の確立をめざしつつ、条件に応じて、大都市部など地域を限定して先進的な制度を確立させることを先行させることも検討する。
A 運転者登録制度の拡充
タクシー運転免許の実現に接近する重要なとりくみとして運転者登録制度の拡充を重視する。
タクシー業務適正化特措法の改正で、2015年10月から運転者登録制度が全国に拡大する。この制度が運転者の資質の向上に役立つものになるようにする。
指定地域(主な政令指定都市13地域)では、「地理」「法令・安全・接遇」試験の厳格化をはかり、一定以上の知識を身につけ、学習をしないと合格できない難度にする。そうなれば、受験者には合格のための学習支援が必要となるので、「自動車運転者養成学校」等の環境整備をはかる。
指定地域以外(全国)では、講習・効果測定を充実させて、運転者の資質の向上に役立つものとする。
運転者登録制度を生かして、アルバイトなど違法な雇用形態を排除するとともに、一定の年齢以上は登録できないようにするなど、安全性確保のための措置を講じる。
登録の実務が事業者団体であるタクシー協会に実質的に任されている現状は、制度の公正性に疑問を生じかねない。登録制度の運用は第三者機関が行うようにし、国や自治体に財政上の支出を求める。
現在の登録制度の下での登録費用が運転者の個人負担となることに反対し、試験や講習にかかる費用が運転者に転嫁されないようにする。
今後の課題として、法人事業者を通じで登録を行うことになっているタクシー業務適正化特措法を改正し、事業者に雇用されなくても試験が受けられ、運転者個人が運転者証を管理できるようにする。
現行の二種免許については、取得年齢引き下げや内容簡易化などの規制緩和を許さず、教習所で取得する場合も含めて必要な技能が適切に判断される試験・検定が行われるようにする。