自主経営の今後のあり方

2001.9.5〜6 第5回中央執行委員会

 2002年2月からタクシー破壊法ともいうべき「改正」道路運送法が施行され、タクシー事業の台数規制が廃止されます。参入と増車、撤退が原則として自由になることから、都市部でのきわめて激しい過当競争や過疎地域での事業からの撤退など、タクシー労働者、利用者がともに被害を受ける事態が予想されます。
 こうしたなかで自交総連は、必要な再規制、実効ある被害の防止策などを強く要求するとともに、いままでにない新しい事態に対応して、『タクシー運転免許構想』によってタクシー労働のあり方そのものを根本から問い直すなど、将来展望をひらく積極的な方針をも掲げて、タクシー労働者と利用者の利益を守る闘いをすすめていくことにしています。
 犠牲を労働者にだけ押し付ける身勝手で横暴な法人経営が横行するような事態になれば、法人の存在意義が問い直されることになるのは必至であり、真に利用者・労働者の利益になるタクシー事業のあり方が探求されなければなりません。
 その探求の一方策として重要な役割を果たし得るのが過去27年にもわたり蓄積されてきた自主経営闘争の経験です。

 『自主経営』とは、事業経営のための資本金(株式会社の場合は株式、有限会社の場合は出資金)のすべてを労働組合(組合員)が出資・保有し、労働組合の目的化された方針・理念に従い、労働組合自ら経営責任を負って管理・運営している事業体のことです。
 それが会社組織(株式会社や有限会社)の場合、『自主経営会社』といっています。
 また、自主経営会社の経済活動及び管理・運営を含めた一連のとりくみを『自主経営闘争』と呼んでいます。
 今後のタクシー事業のあり方との関連もふまえて、現在4地方10社でとりくまれている自主経営闘争の到達点を確認し、問題点は改善しつつ、積極面を生かして前進させることなどを含め、自主経営の今後のあり方を明らかにします。

1.自主経営に関する方針の経緯

(1) 1989年の自主経営プロジェクト報告

 自交総連の自主経営闘争の歴史は、組合つぶしを狙った偽装倒産との闘いのなかで1974年6月に大分地連の新三隈タクシーが新免会社としてスタートしたことにはじまります。その後、山形・山口・福岡も加えて、自主経営が4地方7社に広がるなか、自主経営の長期的対策を検討する『自主経営プロジェクト』が88年9月に発足、89年9月に同プロジェクト報告がなされました。  その報告では、自主経営を「その出発点として働く職場や労働債権を確保し、地域における闘いの拠点を維持するため、闘争の一形態としてとられた緊急避難的措置であった」と位置付けたうえで、『自主経営の任務と役割』として次の3点(要旨)を明らかにしました。
 @自主経営は、そこで働く労働者の生活と権利を守り、経済的・社会的地位の向上をはかる。
 A地方(地域)の闘いの拠点として、その地方(地域)の自交労働者の労働条件改善、事業の民主的発展に寄与する。
 B地方(地域)の労組・民主団体と連帯し、国民的課題の実現にむけた共同の先頭に立つ。

(2) 1998年の規制緩和対策プロジェクト報告

 タクシーの規制緩和が重大な事態を迎えるなか、自交総連は1998年1月に『規制緩和対策プロジェクト』報告を発表、そのなかで、需給調整規制撤廃(台数規制の廃止)の場合の対応策として、自主経営のあり方と関連する次の方向性を提起しました。
 「(経営者が企業責任を放棄し法人経営の存在意義が失われるような)事態が到来するとすれば、我々としては、タクシー労働のあり方の転換を進めざるをえない。すなわち、@個人タクシーを基本とする事業協同組合方式、A労働者協同組合方式によるタクシー事業の経営、などがその方向である。」
 「すでに、我々は、いくつかの自主経営組織をもち、事業経営に関する一定のノウハウを蓄積している。この経験は、我々が新しい方向を模索していく際の貴重な財産である。」

  (3) 2001年の政策プロジェクト報告

 「改正」道路運送法の成立、2002年2月施行との情勢を受けて、自交総連は2001年3月にひらいた第1回中央闘争委員会で、タクシードライバー法案(仮称)の具体化及び自主経営の今後のあり方についての政策プロジェクトの設置を決めました。
 自主経営の今後のあり方については、現在とりくまれている自主経営闘争について、従来の「緊急避難的措置」としての位置付けを見直し、タクシーの将来展望とも関連して、永続的なとりくみとして、その発展を探っていくことも含めて検討することとし、2001年6月14日に自主経営組合合同会議、7月12日、8月6日に政策プロジェクト会議を開催し、本報告をまとめるに至りました。

2.自主経営の現状と問題点

(1) 自主経営の現状

 現在、自交総連には4地方10社(山形3、山口3、福岡1、大分3社)の自主経営会社があります。
 自主経営は、当初は倒産や悪質経営への身売り阻止など緊急避難的な対応として出発したケースがほとんどですが、その後、一番歴史の短い会社でも8年、最長27年にわたり自主経営をつづけてきました。その間、さまざまな問題点や試練に直面しつつも、労働者の権利を守り、地域の拠点として自交総連の運動に貢献してきました。
 今日、自主経営はすでに「緊急避難」としてではなく、永続的な経営としての実質をもっているといえます。

(2) 自主経営が直面している問題点

 自主経営は、労働組合自らが管理・運営するものですから、労働者の権利確保や民主的な運営という点では、本来、営利企業にない有利な特性があります。
 しかし、市場経済の下では、悪質企業も含めた一般企業と互角以上に競争していかなければ経営を維持できないという点で、きわめてきびしい現実のなかにおかれています。
 自主経営のあり方を考える場合、まずこうした現実を直視し、「組合が運営すればうまくいくだろう」というような安易な理想論や幻想に陥らないことが必要・不可欠です。
 現在、自主経営には以下のような問題点があります。

 @ 経営上の問題点

 長期につづく消費不況のなかで、タクシー事業全体の営業収入が年々減少する事態となっています。自主経営会社も例外ではなく、各社とも経営状況はきわめてきびしい実態におかれています。
 とくに、自主経営会社は、出発時点において多額の債務を引き受けている場合も多く、その返済をはかりながら経営を維持しなければならず、いっそうの困難性があります。
 一方では、労働組合の経営であるということから、経営の実態を無視して、無条件で地域平均より高い賃金が保障されるのを当然視するような傾向もあり、そのために新たな借入金をする例もありました。
 「労働運動なんだから、経営は二の次でいい」というような考えが横行する場合もあります。
 会社である以上、赤字がつづけば、倒産という事態も当然ありえます。その場合の責任は全員が負わなければなりません。
 赤字を出さず、長期的、安定的に経営を維持するということを、それ自体独自の課題としてきちんと追求し、必要な経営努力を怠らないことが重要となっています。
 また、過去には、自主経営会社の株を社員(組合員)個人が保有していたため、退職時に売却したり、買い占められたりして、一般企業に乗取られるという事例もありました。現在では、ほとんどの自主経営会社での株・出資金は地連・当該労組等の組織保有となっています。

 A 管理、運営上の問題点

 経営の維持のためには、適切な管理・運営体制の確立が不可欠ですが、この点でも、自主経営には独自の困難があります。
 経営の管理・運営の責任者には、きわめて高度な資質や経験が必要とされますが、そうした責任者の育成や公正な選任は簡単なことではありません。
 それぞれ独自の任務、体制が必要なのに労働組合の委員長と経営上の社長が兼任されていたり、責任者・役員のなり手がいない、短期間で次々と交代するなどの問題が発生している例があります。
 また、労務管理の面では、労働組合の経営であることからくる「甘え」や「無責任」が発生する場合もあります。さらに、そうした問題点をきびしく指摘しない、できないという「なれあい」も存在します。
 逆に、管理者が、「労働者の代表」であることを忘れて、ただきびしいだけの労務管理に陥ったのでは、たんなる使用者と雇用者の関係のようになり、自主経営の意味が失われることにもなりかねません。
 自主経営は、労働者みんなが任務を分担し合い、力を合わせて管理・運営するものであるからこそ、一人ひとりの労働者の深い自覚、それをうながす教育や相互に点検できる体制が必要となります。
 それを保障する前提として、経営内容をはじめ情報を全員が共有し、問題点を共通認識とすることが必要です。

 B 労働運動上の問題点

 自主経営は、その出発時点においては、倒産や組合つぶし、悪質経営への身売り防止など、きびしい困難な闘争過程のなかでかちとってきたものです。そのような闘争のなかで鍛えられた組合員の意識や団結の水準も当然、高められていました。しかし、その後年月を経るうちに、闘争の経験者は退職し、新しい組合員が増えるなどの結果、組合員の意識水準は大きく変化しています。  自主経営闘争の原点、労働組合の意義等に対する認識がうすくなり、たんに「一企業に雇用されているだけ」と考えている組合員が多いという問題点も指摘されています。常に原点を忘れない教育・学習が重要です。
 また、自主経営組合は、地域の労働運動や地連の運動のなかでも先進的・中心的役割を果たす任務を負っていますが、経営の面ばかりに目がいき、春闘時をはじめ地連への結集や地域行動への参加が弱まっているという問題点もあります。
 一方、成果の点では、福祉輸送やホームヘルパー養成、ボランティア活動など、事業・運動を通じて地域社会へ貢献し、利用者・住民との交流を深めている貴重な経験も生まれており、この面ではいっそうの奮闘が期待されています。
 この面では、福祉タクシー、ケアワークドライバー、乗合タクシーなど各地で貴重な経験が生まれており、その先進的なとりくみが全国的な教訓となっています。
 こうしたとりくみをいっそう発展させていくことも重要です。

3.自主経営に対する基本姿勢

 以上の経緯と問題点をふまえて、政策プロジェクトは、次の自主経営の「任務と役割」「留意点」を提起します。

(1) 自主経営の任務と役割

 自主経営は、その出発点として、働く職場や労働債権を確保し、地域における闘いの拠点を維持するために、きびしい闘いのなかでかちとられたものであるが、その闘いを支えた自交総連や地域の労働組合など含め共有すべきみんなの貴重な財産である。
 その原点を忘れないとともに、その後の長年にわたる自主経営闘争の運動実績をふまえ、働く者が自ら経営するという労働者の協同の事業体としての優位性を発揮し、労働者・地域住民の利益擁護に貢献するものとして、将来にわたって継承、発展させていく。

 @ 自主経営は、労働者・労働組合自らが管理・運営する協同の事業体としての機能を生かし、自交労働者の生活と権利を守り、経済的・社会的地位の向上をはかるための役割を果たす。

 A 自主経営は、地域住民及び労働者の権利を守る運動の拠点として、地域社会の発展に貢献でき得る事業の民主的発展のために積極的に寄与する。

 B 自主経営は、地域の労働組合・民主団体と連帯し、労働者・国民の利益を守る国民的運動、共同のとりくみの先頭に立って奮闘する任務を担う。

(2) 自主経営闘争をすすめるにあたっての留意点

 @ 自主経営に直接責任を負う職場組合は、主体的に事業計画を立て、責任をもって推進する。経営基盤の確立をはかり、決して赤字を出さないようにする。

 A 経営・管理部門の体制はきちんと確立し、責任の所在を明確にし、必要な機構整備と人的配置を行う。経営・管理能力向上のための学習、幹部の育成をはかる。

 B 資本金の保有は組織保有を原則とし(現行法上、自主経営が会社形態となっているもとでの措置)、経理・経営実態は定期的に公開し、全員が情報を共有するなど民主的経営の立場を貫く。

 C 職場の組合員は、一人ひとりが主体的に闘争と経営に責任を負っていることを自覚し、労働モラルの確立をはじめ必要な義務と役割を果たす。

 D 職場の労働組合体制はきちんと確立し、組合民主主義を徹底した運営をはかる。

 E 職場の労働者の団結と理解こそが自主経営闘争前進の保障であることを認識し、労働組合の質的強化、労働組合運動全般にわたる学習活動を強化する。

 F 事業全体の民主的発展のための政策立案、実践、経験の蓄積に貢献できるよう、自主経営の優位性、先進性を生かし、積極的なチャレンジ精神を発揮する。

 G 「闘争である」との観点を貫き、自主経営に対する地連・地本の指導体制を確立し、責任とチェック体制の強化をはかる。

 H 総連本部は、自主経営の現状の把握に努め、地方間での経験の交流、交通政策の提案など適切な援助を行う。

4.今後の発展方向について

 いま、現存している自主経営を維持し、永続的に発展させることを展望する場合、労働者協同組合への発展がひとつの課題として提起されてきます。
 現在わが国には、労働者協同組合を規定する法律がないため、自主経営は、形態としては、株式会社、有限会社などの一般の民間企業とおなじ形態をとらざるをえず、あくまで運営の面で、組合員の意志を尊重し、共同で管理するようにしています。しかし、労働者が自ら資金を出し合い、『労働』を出し合って、労働者自身で管理・運営するという体制を名実ともに確立するためには、利潤追求を目的とする民間企業という形態はふさわしいものとはいえません。
 労働者協同組合法の立法化をはかり、事業形態としても真の協同の事業体として発展させていくことが課題となってくるものと思われます。
 さらに、今後の発展を展望するなかで、事業の経営基盤の確立をはかったうえで、事業規模の拡大、新規開業、自主経営間の連携、他業種の企業・協同組合との提携など積極的な経営政策を考慮しなければならない場合も出てきます。
 こうした点については、地方ごとの特性、条件が異なっているため、全国的に画一的な方針を定めることはせず、必要に応じて地方ごとの計画、実践を交流し、学びあっていくこととします。
 自主経営は、克服・改善しなければならないさまざまな問題点を抱えつつも、地域の労働者からは期待を集める存在となっています。
 それは、きびしい労働環境のなかで苦しんでいる多くのタクシー労働者にとって、タクシー事業の将来像、タクシー労働のあり方を問い直すうえで、ひとつの方向性を示すものとしてとらえられていることにほかなりません。
 自主経営が、タクシー事業の将来像の一分野を担い、タクシー労働者の希望の実現に貢献できるよう、自主経営にたずさわる組合員の奮闘を期待し、援助・指導を強めていくものです。


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