運賃改定時に労働条件改善をかちとろう
経営者と国は利用者・国民への公約を守れ

(2019年3月掲載)

 2017年名古屋、18年仙台、京都などでタクシー運賃改定(値上げ)が認可されたのにつづき、19年には全国の半数を超える地域で改定申請が出され、10月頃に改定が実施される見込みです。運賃改定は、タクシー運転者の賃金と密接な関わりがあります。経営者も国も、運転者の労働条件改善を主要な理由として運賃改定を申請し、認可します。運賃改定時に確実に賃金が増えるように、あなたの職場でも自交総連と一緒に闘ってください。

 運賃改定は労働条件改善が理由です

 タクシー運賃(幅運賃の上限)は、経営者が申請して国(国土交通省)が認可して決まります。公共料金の値上げであり、利用者に負担を求めるものですから、いい加減な理由では改定は認められません。原価を償う範囲内で値上げが認められることになっています。

 タクシーの原価は、運転者の人件費が6割前後を占めています。したがって、この部分が増えない限り、運賃改定も認められないということになり、経営者は常に運転者の労働条件改善のために必要だという理由で申請しています。国も労働条件改善の分を見込んで原価を査定して値上げ率を決定します。

 つまり、運賃改定時には、経営者も国も、利用者・国民への約束として、労働者の賃金が増えるようにしなければならないのです。

 スライド賃下げなんてとんでもない

 ところが経営者は、労働者が黙っていると、運賃改定時に足切り額を引き上げたり歩合率を引き下げたりして、運賃改定による増収分が労働者に渡らないようにし、増収分を独り占めしてしまいます。これが「スライド賃下げ」です。労働条件改善のためといって運賃改定を申請し、認められたら労働者に回る分を自分の懐に入れてしまうのですから、ひどい労働者への裏切り行為、利用者・国民への公約違反です。

 スライド賃下げの計算式というのがあって、オール歩合の場合、

 という計算式で賃率(歩合率)を引き下げると、増収分を労働者に渡さずに済みます。

 これに対して、足切り額や歩合率を一切変更しないのが「ノースライド」で、これを実施すれば、増収分が労働者に配分され、賃金は確実に増えます(下の図参照)。


 スライド賃下げには、賃率変更だけでなく、足切の引き上げ、営収の読み替え、手当類の引下げ、それらの組み合わせなど様々な方法がありますが、要は現行の賃金計算方式を一切変更させないことが重要です。

 労働条件というのは会社が勝手に切り下げることはできません(労働契約法9条)。しっかりした労働組合があり、会社のスライド賃下げ提案を毅然とハネつけることができれば、ノースライドをかちとれます。自交総連では、過去の運賃改定でも、ノースライドによる賃金アップを実現してきました。

 国も認めたノースライドの正しさ

 歩合率を維持して労働条件改善を

(2018年3月、京都市域の運賃改定の際、近畿運輸局が公表した経営者への指示文書=要旨)


 今回の運賃改定の実施により、運転者の労働条件の改善が適切にはかられるよう、京都府タクシー協会等に対して、以下の項目について指導をすることとしています。

 1.運賃改定実施後において、実績における運送収入に対する運転者人件費の割合(歩合率)を維持させること等により、適切に運転者の労働条件の改善措置を講ずること。

 2.運賃改定実施後、運転者の労働条件改善についての考え方を、利用者に対して積極的に表明すること。

 3.運賃改定後のしかるべき時期において、運転者の労働条件の改善状況について、自主的にその実績を公表すること。その際、賃金水準のみならず、実質的な労働者負担の軽減や手当て類の創設等、これに関連して講じた措置についても,併せて公表すること。

 ノースライドを求める自交総連の長年の運動が実って、2007年3月28日、国土交通省は「一般タクシー事業における今般の運賃改定申請の審査等の取扱いについて」(国自旅第325号)という通達(全文はこちら=PDF)を出しました。
 この通達は、運賃改定のときに、ノースライドで賃金が増える分をあらかじめ見込んで運賃を査定し、改定率を決めるというもので、ノースライドの正しさを国が認めたといえるものです。
 これを事業者に守らせるため、通達では、事業者は運賃改定時に労働条件改善をすること、改定後に労働条件改善が不十分なときには地方運輸局が指導をすることを明記しています。
 ノースライドを前提に査定して運賃改定率を決めているのですから、「労働条件改善の原資がないからノースライドはできない」などという経営者の言い訳は一切通用しなくなりました。不当なスライド賃下げをねらう経営者がいたら、運輸局・支局に申告して指導を求めることが大切です。

 実際に増収になる運賃改定を

 規制緩和と経済の停滞で、タクシーの営収も低迷状態がつづいています。運賃改定をしても、営収が増えなければ、ノースライドでも賃金が増えないということになりかねません。実際に賃金が増えるためには、次の前提条件が必要です。

 (1)適切な運賃改定率が確保される必要があります。2018年の仙台市の改定では、改定率が2.62%と異常に低く、増収になりませんでした(仙台市運賃改定の検証はこちら=PDF)。運転者人件費をマイナスに査定されているなどの問題点があったため、自交総連では査定の適正化を国交省・運輸局に求めています。

 (2)今後、クレジットカードの利用やアプリ配車の増大が想定されます。これらの手数料は会社が負担するものであり、運転者負担になることがあってはなりません。これらの手数料が、適切に運賃原価に含めて申請され、査定されるようにしなければなりません。

 (3)タクシーの供給過剰を放置し、ムダな遊休車両を抱えたまま、利用者に値上げの負担をお願するわけにいきません。供給過剰のままでは増収にもなりません。適切な需給調整=減車により、多すぎるタクシーを減らし、ムダを省いた経営にしなければなりません。

 自交総連では、これらの措置を国交省にも申し入れています(2019.3.18国交省交渉はこちら=PDF)。地方ごとに運輸局とも交渉します。

 運賃改定時の労働条件改善が確実に実施されるよう、劣悪な賃金を改善するため、自交総連と一緒にノースライドで賃金アップをかちとりましょう。


自 交 総 連