自交労働者No.667、2006年5月1日 |
タクシー確かな再生へシンポジウムに各界から526人 |
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領家委員長あいさつ
新道路運送法が施行されて、丸4年がたちました。今日の実態を放置すれば、世界でも「安心・安全」と評価の高いタクシーの破壊を招きかねないとの想いから、その問題点を明らかにするとともに、根本的な解決策は「タクシー運転免許の法制化」であるとの認識のもと、その具体策を検討するためのプロジェクトを昨年11月に立ち上げました。その中で、(1)規制緩和後のタクシー事業の現状の分析と当面する対策の提言、(2)タクシー運転免許の法制化を中心とする具体的な方策の検討と提言という二つの角度から議論し、報告をまとめました。 道路運送法の改正の目的に照らし合わせ、検証した場合に、いずれの側面からも、実態はまったく逆の結果を招いています。まさに、自交総連が警鐘を鳴らしたとおりの事態となり、その弊害は危機的な状況を引き起こしております。この4年間のタクシーの規制緩和の評価は「多くの否定的な結果を生み、失敗であった」と認識しています。 今後のあり方として、規制緩和の弊害を取り除くとともに、間接的に需給調整を包含する政策として、「タクシー運転免許」の法制化を提案しているところです。それは、過去・現在のタクシーから学び、将来像を展望する「もうひとつのタクシー」の実現です。 「荒廃の道をたどるのか」それとも「再生の道をたどるのか」大きな歴史的分岐点にあります。歴史に耐えうる対応が求められています。 |
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法違反の背景に賃金低下宮城・仙都タクシー労組書記長 青野邦彦 |
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宮城では経営者が、緊急調整発動の要件を緩和するよう、逆特区を申請したが、国はこれを却下した。しかし、必要な規制を復活せよという自交総連の声や、なんとかしてほしいという経営側の声を無視できなくなり、「仙台圏におけるタクシー問題対策協議会」の設置を余儀なくされるようになった。 また、宮城地連では、規制緩和失敗の責任を問う国賠訴訟を提訴して闘っている。そんな中で国は、緊急調整発動の指定要件を変更してきた。中身はまだまだだが、国を動かすことができた。 需給調整を復活できないのなら、タクシー運転免許の法制化しか事態解決の方策はないと確信している。 |
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利用者が理解できない運賃大阪地連書記長 久保義雄 |
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また、個人タクシーの運賃は法人以上に複雑で、中型だけでも20種類。運賃メニューは約45種類を超えているが、こうした運賃制度は雑多で、利用者が充分理解できないのが現状である。 次に新規参入では、Nタクシーなど、企業内個人タクシーと称するリース制賃金(名義貸し)が横行している。同社は、タクシー業ではなく、車両販売と管理費で儲ける仕組みで、明らかに名義貸しであり道運法第33条違反だ。 運賃多様化、新規参入で大阪地域では規制緩和は良いところはなしが大方の見方であり、タクシー労働者の貧困化が拡大している。 |
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暴力事件など現場は殺伐
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交通事故が増え、苦情や駐車違反による行政処分も増えている。 タクシー労働者の賃金は下がり続け、最低賃金違反は推定3割はいるのではないか。 その結果、最近では、付待ち場所をめぐっての暴力事件や「みかじめ料」をめぐる暴力団の介在など現場は殺伐としている。先日は、運転者による乗客のレイプ未遂事件まで起きてしまった。 規制緩和前後の福岡交通圏の状況
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難しい試験が数を抑制
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試験は7段階に分かれていて、筆記試験・試験官と1対1の口頭試験・実技試験など何度も試験を繰り返して段階を上がっていく仕組みだ。受験者はロンドン中のほぼ全部の道や建物などを覚えなければならない。口頭試験では、受験者の性格が「切れやすくないか」を試す場面もある。70%は途中であきらめるという。 こうした難しい試験は、(1)ドライバーの質が極めて高い水準に保たれ、プライドをもって働いている、(2)必然的に合格者数がしぼられるため、運転者や車両数が急増することなく、数量規制がないにもかかわらず過当競争にならない――という重要な役割を果たしている。 イギリスでは、都市部の72%で数量規制が維持されているし、ロンドンのように運転免許が厳しくて数を抑制している所もあり、いずれにしろタクシーが増えすぎないような仕組みになっている。 歴史と条件が異なる日本でロンドンの試験をそのまま採り入れることはできないが、日本に見合った試験制度の確立が求められる。 |
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パネルディスカッションでは、安部誠治関西大学教授がコーディネーターを務め、岡野まさ子国交省自交局旅客課長補佐、富田昌孝日の丸交通X社長、飛田(ひだ)恵理子東京地婦連生活環境部副部長、内田妙子日航客乗組合執行委員長、今村天次自交総連書記長がそれぞれ意見を交換しました。 タクセンを政令都市へ 自交総連 今村書記長
タクシー運転者の資質の向上として、タクシーセンター制度の問題点とその改善が必要不可欠だ。東京・大阪で実施されている地理試験をその他の地方でも行うために運転者の登録機関を設けるべきだ。タクシーセンターの指定地域については、政令指定都市にまで拡大することが強く求められる。 また、事業者負担を主たる収入としている事業運営は実態として中立性が薄く、事業者優位の弊害を招く要因ともなっている。そのため、事業者からの負担金徴収は原則行わず、国の責任で必要な財源を確保すべきだ。 しかし、タクセンの全国展開だけでは運転者の資質向上は不十分であるため、タクシー運転免許の法制化を提案している。この制度は良貨が悪貨を駆逐するしくみとしても有効に機能すると同時に、タクシードライバーの数を通じて、実質的な需給調整効果をもたらすことができるという点で、特別な意義を持つ。なぜなら、限られた一定のタクシードライバーの数そのものが、稼動する台数、つまり供給量の抑制効果をもたらすからだ。 ドライバーの質確保重要 国交省 岡野課長補佐
規制緩和で新しいサービスが生まれるなど一定の成果がある一方、需要が増えず厳しい状況に置かれ、ドライバーの収入に影響していることは承知している。そのため、事後チェックの強化、最賃法違反や社会保険の未加入なども含めた厚労省との連携強化などの対策をとり、交政審小委員会では今後のタクシーの望ましい姿を議論しているところだ。 安全・安心なサービスのためにはドライバーの質の確保は重要で、タクシーセンターの地域指定を政令都市に広げたり、登録・地理試験の強化なども検討課題になっている。自交総連の提案とも方向性としては非常に近いものがあると感じている。 規制緩和にはプラスとマイナスがあり、マイナスがあるから元に戻すというのはどうか。市場の門戸は閉ざすべきでないと思う。 その点、自交総連の提案は、元に戻すというのではなく新しい提案で、ロンドンにまで行って勉強されている。建設的な議論ができた。ドライバーの質の確保は交政審の中でも意見が出ているので、みなさんの声も取り入れていきたい。 利用者の視点で工夫を 東京地婦連 飛田副部長
規制緩和については暮しの安全性の向上の観点から考えたい。タクシーの規制緩和は最初は期待したが、大口企業にはメリットがあるが、個人ユーザーにはメリットがない。乗車拒否はなくなったが、駅や道路でタクシーが交通障害となり、環境面からも増加に歯止めが必要になってきている。 ただし、皆さんには、被害者意識だけでなく、工夫もしてほしい。なぜタクシーが利用されないのか生の声をすくい取ってほしい。利用したいが利用できない人もいる。高齢者や塾通いの子、子育て支援などドアツードアのありがたさを生かしてもらいたい。 タクシーセンターの強化という提案について、東京はセンターがあるので他の地域よりは明らかにいい。これを政令都市に広げるのは期待できる。 また、これからは、環境に配慮したグリーン経営、エコドライブにも取り組んでもらいたい。 台数の再規制が必要 日の丸交通 富田社長
規制緩和で、利用者はいつでも乗れるようになったというが、最大の問題は安全問題で、事故が増えていることだ。乗務員の賃金も低下してしまって、いい人が集まらなくなり、事業者としても本当に困っている。 行政は、悪いところだけ直せばいいというが、お客さんが選択できないタクシーでは規制緩和はうまくいかない。台数の再規制が必要だと思っている。 しかし、自交総連がそれに代わる案を出したことは高く評価している。ただ、乗務員さんは、50点で入ってきた人でも教育して90点にしようという考え方もある。最初から90点以上でなければダメだとなると事業者は干上がってしまう。試験のレベルをどこに置くかが問題だ。 タクシーの安全・サービスは運転者の資質に関わっている。真面目に働いて食べていけないということでいいのか。これが第一の問題だ。法人事業者、個人事業者、労働組合がそれぞれ団結して、規制緩和見直しを国に要請していかなければならない。 国家資格で安全性を担保 日航客乗組合 内田委員長
航空業界もタクシーと同じように規制緩和がされ、私の会社では度重なるトラブルで、国から業務改善命令が出されるにまでなり、お客様からはJALを利用しない理由に7割の人が「安全性が心配」とするなど、安全と信頼をなくすような状態となっている。 航空業界で行われた規制緩和として、整備の規制緩和があるが、最近、整備ミスにより航空機のトラブルが非常に増えている。 この原因として、海外整備が認められたことにある。 海外での整備が認められるようになってからは、エンジン取り付けの間違いや部品が錆びているなど、国内の整備では考えられないようなことが起き、まさに、航空会社としての責任を果たせないような安全破壊の現状を引き起こしている。 そのため、ついに国も航空法改正などの動きを行うようになり、国交省の航空局長も「一定程度は自社での整備が望ましい」とまで言うようになった。 整備士資格の規制緩和が技術力の低下を招いた。今後は、国家資格制度で安全性を担保するようにしなければならない。 タクシー運転免許法案に賛成 関西大学 安部教授
自交総連は現行制度にかわるものとしてロンドンのようなタクシー運転免許制度を提案されているが、ロンドンのタクシー免許は個人タクシーを前提とし、日本では法人タクシーが重要な役割を果たしているため、この点をどのように工夫するのかを考えていかなければならない。 また、経営者からは資格制度について今の運転者はどうなるのかなどの質問も出されており、今後の検討が必要だ。ドライバー不足も深刻な問題で、経営側にとっとて運転免許制度は難しいものとなっている。 一方イギリスでは、国レベルでのタクシー台数規制はやめようということになっているが、そのかわり試験のハードルを高くして、タクシーの免許を取得させず、結果として供給量の調整が行われている。 今後は労働組合としても日本のタクシーをどのようにいいものにしていくかという視点から考える必要がある。私もタクシー運転免許法案には賛成しているので、タクシー業界の中でも波紋を呼んで、今後議論の柱の一つとなっていけばと思っている。 |
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ドライバーの質確保で一致
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共通して語られたのは、(1)タクシーの安全・安心の確保の重要性、(2)サービスの質を落としてはならないということ、(3)そのためには、ドライバーの質を高め、誇りのもてる職業にしなければならない――ということだったと思う。 私もロンドン調査に参加したが、イギリスでは民営化や規制緩和をしても鉄道やバスなど公共交通についての公的枠組は厳しいものがある。昨年調査したソウルのバスも、経営は民間企業だが運行は準公営という形で公共性を高める工夫をしていた。 ロンドンでは、タクシーのリミテーション(数量制限)はしなくても、運転免許資格制度のようなレギュレーション(規制)はしている。そのため、ドライバーは誇りをもって仕事をしている。 今日の議論の中で出された共通点を広げていけば、タクシー運転免許の法制化へ向けて、今日を飛躍点としてもう一歩発展していけるのではないか。そういう期待をこめて感想としたい。 |
自 交 総 連 |