自交労働者No.677、2006年10月15日

運賃改定 増収分は労働条件改善に

「確実に増収になる改定」が大前提

経営と行政に必要な措置を要求


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客待ちするタクシーの列
 前号で紹介した長野、大分、長崎、東京に続き、神奈川、和歌山などでもタクシー運賃改定の申請が出され、さらに全国的に広がる見込みです。運賃改定はタクシー労働者の労働条件に密接に関わる問題ですので、これまでの歴史も振り返って解説します。

運賃改定時のノースライドとは

 《解説》運賃が上がれば、普通は運送収入も上がり、賃金も増えます。単純な例をあげると、月の運収が40万円で、10%運賃が上がって客減りはなかったとすると、運収は44万円になり、賃率60%ならば、賃金は24万円が26万4000円になります。
 ところが、運賃が上がっても、それが賃金に反映しない仕組みがかつては広範にみられました。これをスライド賃下げといいます。
 経営者は「いままでと同じ労働しかしていない労働者の賃金が自動的に上がるのは不合理だ」といって、先の例でいうと、運賃が10%上がれば、賃率を60%から54・5%に下げ、賃金は24万円で変わらないようにしてしまうわけです。
 自交総連は、このようなスライド賃下げを許さない闘いを運賃改定のたびにしてきました。これをノースライド闘争といいます。

賃率切り下げには応じない

 賃金は労働組合の合意なくして勝手に切り下げられないわけですから、ノースライドとするためには、賃率変更には応じないというのが基本です。
 しかし、経営者の方も、増収による利益が自分のところに入るのか、労働者にいってしまうのかというのは重大問題ですから、スライド賃下げを認めさせようと必死になります。運賃改定の前後は、タクシーの総資本と労働者が対決する大変な闘いがくりひろげられました。

原価公開と担保措置

 この闘いには、行政当局に対する政策闘争も欠かせません。
 タクシー運賃は、国が認可するもので、勝手に値上げできません。経営者は「コストが上がって値上げせざるを得ない」という理由で運輸局に申請をして、運輸局がそれを査定して認可します。
 そこで申請原価と査定原価の公開を要求しましたが、70年代には何度要求しても公開されず、84年に初めて公開させることができました。申請・査定原価には、人件費のコスト増(労働者の賃金アップ分)がちゃんと織り込まれていることがわかりました。
 以後、運輸当局は、運賃改定時には、改定の趣旨に従って増収分を運転者の労働条件改善にまわすように事業者に指示するようになりました(表1)。問題はそれを確実に実行させる担保措置です。
 労使で事前に「増収分を労働条件改善に充当する」という趣旨の労使協定を締結すればいいのですが、当然応じない経営者がいるわけで、行政の厳しい指導が求められます。90〜91年にかけて実施された運賃改定では、具体的な労働条件改善の事前協定がすべての労組(複数ある場合はそのすべての労組)と事業者間で締結されない限り、当該地区の運賃改定認可を留保するという措置をとらせました(91担保方式)。
 しかし95〜96年以降、デフレ状況もあり、規制緩和の激動を経て、10年以上も運賃改定が行われていません(97年の消費税改定分の値上げを除く)

今回の改定への対応

 いま申請されている運賃改定は、規制緩和後の上限運賃改定という新方式による初めての改定となります。
 今回の改定では、増収分の還元という以前に、そもそも1台あたりの運収が本当に増収になるための運賃改定にしなければなりません。そのためは、(1)バラバラ運賃の是正(2)適正台数への減車(少なくとも増車しない)が不可欠で、経営者の自覚が必要です。
 そのうえで、行政当局には、申請・査定原価の公開と労働条件改善の担保措置、あわせて輸送効率向上の面でも必要な措置を求めていくことが大切です。
 なお、今回の運賃改定は燃料費の上昇がきっかけですが、もともとタクシーの総費用のなかで燃料費の占める割合は6%程度にすぎません(表2)。それが仮に30%上がったとしても、6%が7・8%になって1・8ポイント増えるだけです。東京の改定申請は13〜23%の値上げとされていますから、そのうちの1・8ポイント以外の大部分は人件費の上昇に充てるのが当然ということになります。

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国に具体的な反論を要求

第4回国賠裁判 108人が地裁前で宣伝

東京地連


 【東京】国土交通省による大口割引運賃の導入に対する行政処分取消と、国に対する損害賠償を求める東京地連「国家賠償請求訴訟」の第4回裁判が10月2日、地裁606号法廷で行われました。
 この日は朝から東京地連の組合員108人が原告団を先頭に東京地裁前での宣伝行動を実施し、宣伝カーから飯沼委員長をはじめ、高城原告団長らが次々と、大口割引運賃の不当性、規制緩和の弊害を訴えました。
 裁判では国からの答弁書の確認とともに今後の進行について審議を行いました。
 東京地連弁護団はこの裁判で、国に対し、従来の反論だけではなく、具体的な反論を行うように要求。また、次回裁判ではタクシービジョン小委員会報告書に基づいた新たな陳述とともに、2人の口頭陳述を申請しました。
 この裁判傍聴には110人の組合員が参加しました。
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ビラを手渡す東京地連原告団=10月2日、東京・霞ヶ関駅前 宣伝カーから大口割引運賃の不当性などを通行人に訴える飯沼委員長



国交省の証人認めず

第6回国賠裁判 傍聴支援に91人参加

宮城地連


 【宮城】第6回目にあたるタクシー国賠訴訟裁判が9月25日、仙台地裁で開廷され、傍聴支援に91人が参加しました。
 法廷では、緊急調整措置発動をしなかったことについて被告国側に証人として田端前旅客課長を求めましたが、裁判官からは証人としての出廷は認められず、書面を提出すれば足りるとされました。
 裁判後に行われた報告集会では菊地弁護士が「前回の裁判までは、こちら側が有利な状況だったが、今回は証人の求めが認められないなど、少し不利な状況となった。しかしみなさんの運動が世論を動かしたのは確かなので、引き続き裁判勝利をめざしてがんばろう」と述べました。
 次回は11月20日にひらかれます。



自動車運転手の自殺642人

全体では8年連続の3万人超

警察庁調べ


 警察庁は2005年中の自殺概要をまとめ、自殺者は3万2552人で前年より227人増、8年連続で3万人を超えました。
 職業別では自動車運転手は642人で前年比13人増、規制緩和以来600人以上がつづいています。自動車運転手は、相次ぐ規制緩和で、大幅な収入低下で、低賃金のなか、不幸にも自ら命を絶つ実態がわかります。

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各地の大会


明るく活力ある発言相次ぐ

福島第12回大会

 【福島】福島地連は9月26日、福島市民会館で第12回定期大会をひらきました。
 討論では、明るく活力ある発言が相次ぎ、満場一致で「輸送の安心・安全、誇りと働きがい、地域への貢献」をめざす06年度運動方針を決定。来年の大会までに実増100人以上の組織拡大をはかる決意を固めあいました。大会では、本部の今村書記長が運転者登録制度の導入問題とタクシー運賃の改定に関わって約1時間の講演を行いました。
 (役員改選なし)

全員参加の運動の確立を

千葉第30回大会

 【千葉】「手もだす、足も出す、口もだす、労災新基準のもとに点検闘争強化、全員参加の運動の確立、組織拡大と組織統一で賃金と職場権利の拡大、規制強化で安全なタクシーを」のスローガンを掲げた千葉地本第30回定期大会が、9月26日にひらかれました。
 大会では、運動の経過と情勢、06年度運動方針、会計決算・予算が満場一致で確認されました。
 委員長=小林正勝(再)▽副委員長兼書記長=和田修(再)

領家委員長が今大会で勇退

東京第113回大会

 【東京】9月27〜28日、東京地連第113回定期大会がひらかれました。大会は、3期6年の委員長の責務を果たしこの大会で勇退する領家委員長のあいさつではじまり、その後1年間の総括、決算、06年度運動方針、予算などを採択し、新役員を選出しました。
 委員長=飯沼博(新)▽副委員長=高日成(再)、徳永昌司(新)、早川広之(再)▽書記長=鈴木勇(再)▽書記次長=石毛浩一(再)、宮竹光男(再)

新しい運動を構築しよう

大分第45回大会

 【大分】「めざそう輸送の安全・安心・誇りと働きがい、自交労働運動の構築」のスローガンのもと、大分地連第45回定期大会が10月4日、大分市教育会館で開催されました。
 相次ぐ地連役員の病気などで充分な地連体制がとれなかった1年間を厳しく総括し、新しい運動を構築しようとの運動方針を、満場一致で採択し、決意を固めました。
 委員長=海老原昇(再)▽副委員長=佐藤文男(新)▽書記長=衛藤和範(新)

課題達成組織拡大を全力で

京都第58回大会

 【京都】京都地連は10月5日、京都工業会館で第58回定期大会をひらき、06年度運動方針と新年度役員を決めました。
 討論では、現実味を帯びてきた京都での運転者登録制度導入について質問・意見が集中。この課題達成と自動車総量規制のとりくみに加え組織の強化拡大にむけ全力をあげることにしました。
 委員長=安井暁(再)▽副委員長=佐藤正幸(新)、大塚昌之(新)、石原敏雄(再)▽書記長=浅井大二(再)▽書記次長=津村昌行(新)

地連組織拡大で権利確保へ

鹿児島第33回大会

 【鹿児島】鹿児島地連は10月5日、第33回定期大会を鴨池公民館で開催、大会では賛同署名キャラバン行動の成果や鶴丸労組の権利獲得の闘い、大和労組の会社更生法のとりくみなど05年度の運動総括と3桁100人の組織回復で権利確保をめざす運動方針案を討議し決定しました。
 委員長=西原正志(新)▽副委員長=日高光義(新)、芝野宏(新)▽書記長=瀬戸山実義(再)▽書記次長=山崎秀文(再)

実効ある登録制めざし奮闘

宮城第30回大会

 【宮城】宮城地連は10月7日、第30回定期大会をひらきました。 確立した方針は、止まることを知らない営収の落ち込みなど厳しい実態のなかでも、国賠訴訟はじめ組合員の奮闘で規制緩和見直しの交政審報告をかちとったことなどを確信に、実効ある運転者登録制などめざし奮闘することにしています。
 委員長=相沢道彦▽副委員長=本間明、千代窪英雄▽書記長=石垣敦▽書記次長=鴇(とき)勉、鷲尾順章(いずれも再)

状態悪化打開へ運動が必要

広島第41回大会

 【広島】タクシー労働者に飯の食える賃金を、なにくそ仲間を増やして要求前進だ!
 広島地本は10月7日、福山市民参画センターで第41回定期大会をひらきました。
 討論では、11年ぶりに上限運賃に戻った呉市の現況や下限500円導入後7か月余りで上限回帰の気配が出てきた福山市の動向が報告され、状態悪化打開への運動の必要性が強調されました。
 委員長=中谷広夫▽副委員長=切田明▽書記長=内谷富雄(いずれも再)

団結して賃金を良くしよう

静岡第29回大会

 【静岡】静岡地連は10月10日、第29回定期大会をひらき、新年度運動方針と新役員を選出しました。
 今期で勇退する郡司委員長は、小泉規制緩和でタクシーは増え、格差が広がったと述べ、運賃改定の動向にも注目して、労働者が団結して賃金を良くする方向に転換しようと訴えました。
 委員長=神谷宗十郎(新)▽副委員長=伊藤雅晴(新)、小島洋一(再)▽書記長=川原崎明(再)▽書記次長=市村直之(新)



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