自交労働者No.930、2019年7月15日

安心・安全な公共交通の充実を

自家用有償旅客運送の拡大を
ライドシェアへの突破口にするな


  成長戦略実行計画(未来投資会議の答申)と経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)が6月21日に閣議決定されました。交通に関しては同じ内容で、自家用有償旅客運送を拡大する方針が明確にされ、来年の通常国会に道路運送法改定案を提出するとされています。


ライドシェアをごり押ししようとするソフトバンクに抗議する自交総連のデモ隊=3月7日、東京・千代田区
ライドシェアをごり押ししようとするソフトバンクに抗議する自交総連のデモ隊=3月7日、東京・千代田区

安全性に問題あり

表
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  自家用有償旅客運送は、右表のように、バス・タクシーがない地域での限定的、例外的な運送で、安全管理が緩くなっています。
  これを無限定に拡大することは、利用者の安心・安全が守れず、持続的な交通機関ともなりえません。
  しかも、この真の目的は、竹中平蔵氏の発言にみられるように、ライドシェアへの突破口にしようというものです。
  道運法改悪、自家用有償旅客運送の拡大を阻止しなければなりません。


補助金増額が必要

表

  地方の交通空白地で住民の足を確保するためには、安心・安全なバス・タクシーを活用し、乗合タクシーを広げていくことが必要です。
  事業者は公共交通を担う自覚をもち、地方自治体と協力して総合的なまちづくりの計画を立てていく必要があり、労働組合も協力していきます。
  そのためには補助金を大幅に増やさなければなりません。現在の地域公共交通確保維持改善事業の予算は、路線バスや離島航路など全部含めて220億円です。抜本的な改善が必要です。

春闘後も闘いの継続を

19春闘の評価と今後の課題

  自交総連19年春闘は7月9日現在、122組合が要求を提出、うち69組合が回答を引き出し、47組合が妥結・了解しています。
  東北・東京・大阪の代表に今春闘の評価と今後の課題について聞きました。


減車と再度の運賃値上げを

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  東北地連・石垣敦書記長
  東北地連の19春闘のとりくみは、13職場で要求書を提出し、10職場が了解・妥結となりました。
  A型賃金の相馬・馬陵は、それぞれ1000円・2000円の賃上げを行いました。他の職場は、現行賃金体系を維持したうえで、期末手当・福利厚生費などを獲得し、政策合意を結んでいます。
  この春闘中に、仙台塩釜・名取で6社が身売り・廃業・倒産となっています。いずれも労働者不足に加え、将来展望をもてなくなってのものであり、今後増加していく危険があります。
  仙台市では、昨年の運賃値上げにもかかわらず営収が前年割れを続けています。一層の減車と再度の運賃値上げが必要となっており、春闘後も闘いの継続が求められます。


悪慣習の地域的一掃へ運動

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  東京地連・舞弓義隆書記長

  東京地連の19年春闘は、白タク合法化阻止、乗務員負担制度と累進歩合制賃金の地域的一掃を重点課題に取り組みました。
  乗務員負担制度と累進歩合制度は、国交省・厚労省の通達があるにもかかわらず、賃金水準を低下して合理化を狙う事業者はいまだに後を絶たず、地域的一掃に至っていません。しかし、粘り強い交渉で乗務員負担撤廃や新賃金改定で累進歩合制賃金の撤廃をかちとった組合もありました。また、働き方改革関連法施行による就業規則変更は、5年間猶予からか進捗が鈍いようです。一方有給休暇5日間取得については、足切り減額をかちとった単組や取得しやすい制度の導入などの前進がありました。
  課題は、三多摩地域の運賃改定でノースライド獲得へむけて、夏から秋への運動強化が求められています。


近年にない厳しい春闘

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  大阪・庭和田祐之書記長
  19春闘を総括するにあたり看過できない問題が進行していると言わざるを得ません。単組の力量が明確化する要求書提出もできない組織実態にある単組が出ています。
  大阪地連のオルグとして、要求書提出や解決に向けた団交同席など指導しますが、糠に釘状態で指導に従おうとしません。この問題の根深さは、自交総連運動や大阪地連に反旗を翻すものではなく、ただ単に役員と組合員の高齢化から「そっとしておいて欲しい」という根深い問題があります。
  春闘の成果については「一職場一重点課題」が浸透し、了解、妥結に至った単組は、各職場の重点課題の獲得とともに運賃改定時のノースライド、そして現行労働条件維持プラス解決金5000〜2万円で解決しました。しかし数社から合理化提案がなされ、現時点も協議が続いている単組もあります。さらに社会保険料の未納問題から営業譲渡問題が発生するなど混沌とした状況にある単組も内在するなど、近年にない厳しい春闘だと言えます。

反響の大きさ感じる

ライドシェアの危険性を訴え

ソフトバンク本社前宣伝行動

ライドシェアの危険性を訴える城委員長=6月19日、東京・国際フォーラム周辺"
ライドシェアの危険性を訴える城委員長=6月19日、東京・国際フォーラム周辺

  【東京】東京地連の白タク対策会議は、ソフトバンク・グループの株主総会が開催された6月19日、有楽町駅にある東京国際フォーラム周辺で、宣伝行動を実施。書記局を含め18組合74人が参加しました。
  城委員長は「白タク行為を『ライドシェア』と称して合法化しようとする動きがあり、その中心的役割を担っているのがソフトバンク・グループや楽天です。株主のみなさんは、このような事業に賛同・加担しないでいただきたい」と訴えました。
  続いて本部の菊池書記長や各ブロックの代表が、ライドシェアを解禁した諸外国で乗務員による事件・事故が多発したことから再規制へ方針転換している実態も含めて危険性を訴えました。
  参加者は、「スマホで撮影している人もいて、反響の大きさを感じる」と話しながら、ティッシュに折り込んだビラを1000枚、道行く人々に配布しました。
  宣伝行動の様子は東京地連のHPにアップし、またツイッターなども活用しながら、多くの人々に拡散させるSNSのとりくみも進めています。

乗務員から問い合わせ

タクシー会社を重点的に組織拡大宣伝

長崎地連

ラッピングされた宣伝カー"
ラッピングされた宣伝カー

  【長崎】長崎地連は6月12〜21日、組織拡大宣伝を行いました。
  執行委員会で議論した「ライドシェアは安全ですか?」「タクシーは安全運転に努めています」「最低賃金は762円!」の宣伝カーラッピングと、ビラ6案(各200枚)、機関紙を行動前に準備しました。
  佐世保地域の宣伝行動では、タクシー会社を重点的に回りました。各タクシー会社の休憩場所(公園等)も回り、ビラ配布・懇談を行いました。
  ビラを受け取ったアルバイト乗務員から有給休暇についての電話連絡があり、早々時間をとり、直接懇談し説明しました。今後、組織拡大に繋がる可能性がありますが、対話したのは全て65歳以上の乗務員でした。

「食べていけない」との声

県内半周の宣伝行動を実施

鹿児島地連

乗務員と対話し、消費税増税反対署名への記入も呼びかける
乗務員と対話し、消費税増税反対署名への記入も呼びかける

  【鹿児島】鹿児島地連は6月3〜7日、九州ブロックの宣伝カーを借り県内半周の宣伝行動を行いました。
  市内待機場や空港などで、事業そのものが危ぶまれる中で、地域の活性化と市民の足を守ろうと乗務員と話し、2種類のビラと自交労働者新聞を配りました。
  【乗務員の声】
  ◎「白タク行為は許されない、あなた達が知らせてくれるから有難い」(市内待機場)
  ◎「白タクは出ていないが、1日いて2回〜4回実車になるだけ、食べていけない」(空港)
  ◎「観光客も少なくなり、待機車も減った」「夜は閑古鳥が泣き、代行がはびこっている」(指宿駅界隈)
  ◎「若い運転手が入って来ない、高齢者ばかりで、午後3時にはあがる」(他)

自主経営の果たすべき役割確認

自主経営交流会を開催

東北ブロック

  【東北】6月11日から12日にかけて、横手市かまくら館において第7回東北ブロック自主経営交流会が開催されました。
  秋田のよこてタクシー、宮城の秋保交通、山形のハイヤーセンター、余目タクシーのよっつの自主経営会社の代表、本部と東北地連から13人が参加しました。
  本部の菊池書記長の報告のあと、よっつの職場から報告がなされ、労働不足が深刻、自主経営立ち上げ時代の組合員が少なくなり闘争としての位置づけが薄れている、資金づくりが大変、自治体からの委託料が低下している、などの問題が提起されました。
  2日目はテーマを決め討論を行い、タクシー制度が激動する中で自主経営が果たすべき役割について議論が集中しました。
  自交総連らしい政策の優位性と組合民主主義の徹底が強調されました。

労働条件改善が不可欠

17年事業用自動車の交通事故発生状況まとまる

  【解説】国交省がまとめる17年の事業用自動車事故統計が公表されました。
  事故件数は全体で5305件と前年より115件減っています。
  運転者の健康状態に起因する事故は、心臓疾患で大幅に増加し、全体ではわずかに減少しました。乗客の命も危険にさらす事故の防止のためには、交通労働者の労働条件の改善が不可欠です。

表
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※データはこちら

年金2000万円足りない問題
「なかったことにする」で大丈夫?

年金制度の改善が必要、財源も提案済み

「マクロ経済スライド」を廃止して、暮らせる年金に

  公的年金では、夫婦二人の老後生活に2000万円足りない――金融庁の報告書の記述に、2000万円も貯めておけるはずがないと衝撃が広がりました。
  政府は年金制度の不備が明らかになるのをおそれて報告書を受け取らず、なかったことにするという暴挙に出ましたが、年金だけでは老後の生活をまかなえないという現実はなくなりません。

年金減を制度化

  年金が足りなくなる最大の原因は、少子化の程度等を勘案して年金を減額するマクロ経済スライドというしくみです。
  下図のように、現在、夫婦で20万円の年金で生計費には5万円足りないとした場合、10年後には物価上昇に合わせて増えるべき年金がマクロ経済スライドで減額されて、21万余円にしかなりません。不足額は8万円近くに拡大します。このしくみをそのままにしておくと、老後資金の不足は現在40歳の夫婦で3600万円に達します。

財源はあります

  暮らせる年金にするためには、マクロ経済スライドの廃止が必要です。
  ところが安倍首相は、党首討論で廃止は「ばかげたこと」と言って、検討さえしない姿勢です。廃止するには7兆円の財源がいる(から無理)とも述べましたが、これはマクロ経済スライドによる年金減額が7兆円に上るという表明です。
  年金の制度改正のための財源は、すでに野党から具体案が提案されています(下表)。聞く耳持たずで、不備は「なかったことにする」政治で大丈夫でしょうか。




図
表

ノースライドと運賃改定 (1)
 現行の賃金計算方式を変更させないのが重要

  今年、全国の半数を超える地域でタクシー運賃改定(値上げ)申請が出され、10月には改定が実施される見込みです。
  改定時に賃金が増えるには何を求めるべきか―全2回の連載で解説します。

運賃改定は労働条件改善が理由です

  タクシー運賃は、原価を償う範囲内で値上げが認められ、その原価は運転者の人件費が6割前後を占めています。
  したがって、運転者の賃金が増えない限り、運賃改定も認められません。経営者は常に運転者の労働条件改善のために必要という理由で申請し、国も労働条件改善の分を見込んで原価を査定し値上げ率を決定します。
  つまり、運賃改定時には、経営者も国も、利用者・国民への約束として、労働者の賃金が増えるようにしなければならないのです。

スライド賃下げなんてとんでもない

  ところが経営者は、労働者が黙っていると、運賃改定時に足切り額を引き上げたり歩合率を引き下げたりして、運賃改定による増収分が労働者に渡らないようにし、増収分を独り占めしてしまいます。これが「スライド賃下げ」です。
  運賃改定の目的を考えれば、運賃が上がれば歩合給でも賃金も上がるはずなのに、スライド賃下げで下げられるのですから、ひどい労働者への裏切り行為、利用者・国民への公約違反です。
  それに対して、足切り額や歩合率を一切変更しないのが「ノースライド」で、これを実施すれば、増収分が労働者に配分され、賃金は確実に増えます(下の図参照)。
  スライド賃下げには、賃率変更だけでなく、足切の引き上げ、営収の読み替え、手当類の引下げ、それらの組み合わせなど様々な方法がありますが、要は現行の賃金計算方式を一切変更させないことが重要です。


図