自交労働者No.971、2023年4月15日

タクシーに協議運賃を創設

新たなタクシーへの規制破壊

東京・大阪も制度上は適用

国交省からレクチャーを受ける自交総連の代表=3月10日、東京・参議院会館会議室
国交省からレクチャーを受ける自交総連の代表=3月10日、東京・参議院会館会議室

 共創による地域公共交通の再構築をすすめる――そんなお題目のもとで、新たなタクシーへの規制破壊が急浮上しています。
 2月10日に『地域公共交通の活性化及び再生に関する法律等の一部を改正する法律案』が閣議決定され、3月24日には衆議院を通過し、参議院委員会で審議が行われています。
 この法律案は、地域公共交通について地域の関係者の連携・協働=「共創」を通じ、利便性・持続可能性・生産性の高い地域公共交通ネットワークへの「リ・デザイン」(再構築)をすすめるという趣旨の改定で、広範囲にわたって一括していくつもの法律を変更するものです。
 注目すべきは、法律案の概要(下)にあるように、道路運送法の改定による「鉄道・タクシーにおける協議運賃制度の創設」がその中に盛り込まれていることです。
 自交総連は、新たなタクシーへの規制破壊としてこれを非常に問題視しています。
 振り返って3年前、20年にも同法律は改定されており、そのときは「自家用有償旅客運送の規制緩和」が行われ、自交総連の阻止運動によって野放図な拡大に一定の歯止めをかけることができたという成果があります。
 今回の協議運賃の創設は一気呵成のスピードで行われています。まずは早急に危険性を周知していくことが重要です。

国交省へ緊急レク

 自交総連は、協議運賃制度の詳細を聞きとるために日本共産党の田村智子参議院議員(国土交通委員)を介し、3月10日に国土交通省からレクチャーを受けました。国交省の説明(下)の後、質疑応答でさらに制度の問題点を確認しました。
概要


 Q1・組合=協議運賃制度の導入について、都市部での導入はしない、特定地域・準特定地域は対象外ということだが、各地で運賃改定がすすみ、営業収入が上がっている。準特定地域から外れる地域は導入対象地域となるのか。
 A1・国交省=特定地域・準特定地域を外れれば都市部ではない。東京でも準特定地域でなくなれば制度上は適用地域となる。
 Q2・組合=タクシー事業者がない地域ではどうするのか。
 A2・国交省=営業地域にはタクシー事業社は存在しても、当該エリアに営業所がない、あっても運転者がいないということがある。運賃を上げて、運転者の賃金を上げていく。二種免許支援も行っているので、運転者が増えるようなサイクルにしていきたい。
 Q3・組合=自治体が支援をするということは公定幅運賃の中で考えるのか、協議した運賃ということか。
 A3・国交省=公定幅運賃とは関係なく協議した運賃。1事業者ごとの運賃となる。
 Q4・組合=助成することで、公定幅運賃の枠内に引き上げるのか。
 A4・国交省=原価との関係で適正かどうかは見る。準特定地域ではない地域が対象なので、公定幅(特定・準特定地域は下限割れは変更命令)ではなく、道路運送法上の規定にもとづく事業者の経営状態や、不当な競争とならないかを見る(下限割れならば適正な審査を行う)。
 Q5・組合=結局は国がタクシーに補助金を出し、支援すれば解決するのではないか。
 A5・国交省=補助金を出せばよいというのはその通り。自治体が自家用有償旅客運送に助成するならタクシーに助成させたい。タクシーを使いやすくしたい。

協議運賃のここが問題

 今後の運用を注視するためにも、この協議運賃の問題点を整理していきます。

1 現行の制度でなぜ不十分  交通が不便な地域にくらす住民の足を守るための地域公共交通については、乗合・デマンドタクシーなど自治体と事業者の共同のとりくみが全国的にすでに展開されています。
 ここに国や地方自治体が持続可能性を担保できる補助金を出し、諸経費等で法人タクシーが賄えないのであれば個人タクシーを認めていくなどすれば解決できるのではないでしょうか。
 現行の制度で対応できるものを、あえて法改正をしてまですすめようとしていることに危機感を覚えます。

2 タクシー運賃制度の大転換  公共交通であるタクシーは、総括原価方式(営業に必要な原価+適正な利潤)を用いた運賃を国交省が認可しています。
 しかし、この協議運賃制度は、1地域(都道府県・市区町村)の協議会で協議が調い、国土交通大臣への届出がなされれば運賃設定が可能となります。総括原価方式や公定幅外でも良いというタクシーの運賃制度の大転換といえる制度変更です。
 交通産業の柱である運賃制度を変えるということは、安全コストを無視した低運賃での運行を可能にします。

3 大都市適用で不当競争?  都市部以外の交通不便地域を対象にするとのことですが、その縛りもタクシー特措法の準特定地域の指定が解除されれば、東京や大阪などの都市部も適用地域となります。
 さらに、準特定地域が解除されれば、規制緩和地域となり、新規会社の流入も可能です。そうした会社も協議運賃の対象会社となり既存のタクシー会社との競合も発生しかねません。歯止めといえるものは、国交省の「不当な競争を引き起こすおそれのあるもの」という説明だけで極めてあいまいです。

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他産業では考えられない

乗務員負担問題を激白

庭和田委員長がKBSラジオに出演

 京都地連の庭和田書記長(本部委員長)は3月12日、KBS京都のラジオ番組「久米村直子のスーパーデューパーサンデー」にゲスト出演し、京都のタクシー労働者の問題を訴えました。
 庭和田書記長は、運賃改定や乗務員の高齢化問題について語った後、「他産業では考えられないことだが、一部のタクシー会社ではクレジット手数料を乗務員に負担させるなどの行為が平然とされている」と説明しました。さらに「会社側はそれを『受益者負担』というが、まぎれもなく一番『受益』を得ているのは事業者で、中には障がい者割引の負担を求める会社もある」と激白。これにはパーソナリティーの久米村氏も「初めて知った」と絶句しました。
 続けて庭和田書記長は、「こうした障がい者割引などは、国や自治体が本来10%といわず30%でも負担して、健常者と同じく街へ出ることができる仕組みをつくるべきだと思う」と話し、行政の在り方にも疑問を投げかけました。

怒りの行動実施

 京都地連は23日に開催した中央委員会で、「2・1怒りの行動」を4月18日に大阪市中央区の近畿運輸局前で実施することを確認しました。
 また、関西ブロックとして大阪、京都、滋賀の各府県での宣伝行動の実施も決定し、新型コロナウイルスの感染状況をみながら組織拡大に旺盛にとりくんでいくと意思統一しました。

4年ぶりに自動車パレード

25台がみなとみらいを回る

神奈川地本

当日は絶好の快晴に恵まれた=3月5日、神奈川・山下埠頭
当日は絶好の快晴に恵まれた=3月5日、神奈川・山下埠頭

 【神奈川】神奈川交運共闘は3月5日、コロナ禍の影響により中止していた自動車パレードを4年ぶりに開催しました。
 当日は晴天かつ無風の絶好のパレード日和に恵まれ、タクシー15台、建交労ダンプ3台、コンテナヘッド車両4台、一般参加(自家用車)3台の計25台で3隊列を組んで、山下埠頭を出発し、みなとみらい地区を中心にパレードを行いました。本来は2倍の車両を集めての予定でしたが、感染を考慮して控えめに行いました。
 首都圏交運共闘、神奈川労連からも叱咤・激励を頂き、23年春闘勝利に向け大々的に現状を訴えました。

運賃改定とタクシー運転者

【2】増収になる前提条件とは

真に労働条件改善に資するものか査定を見極める

 運賃改定が実施されても、値上げ後に営業収入が増えなければ、ノースライドでも賃金が増えないということになりかねません。
 実際に賃金が増えるためには、次の前提条件を満たすことが大切です。

1 適切な運賃改定率の確保
 まず、適切な運賃改定率が確保される必要があります。
 タクシー運賃は、事業者の要請に対して国(運輸局)が査定を行い、必要な分だけ値上げを認める仕組みになっています。増収分がきちんと運転者の賃金アップ分に反映される査定になっているかどうかが重要です。
 東京都特別区・武三地区で22年11月に実施された運賃改定において、関東運輸局が公表した運賃査定原価が下表です。
査定原価
 表の実績(値上げ前)と改定後(値上げ後)の増加率を比べると、運送収入は14・4%増加し、運送原価のうち直接運転者人件費は12・4%増加するという計算になっています。
 つまり、増収が見込まれる51・8億円のうち31・7億円は運転者人件費のプラスに充当するもの、と運輸局が査定したということです。
 しかし一方で、18年の仙台市の運賃改定では、改定率が異常に低く、運転者人件費をマイナスに査定される問題が発生しました。
 運輸局が公表する査定が、真に運転者の労働条件改善に資するものとなっているか見極めなければなりません。

2 不適切な運転者負担の撤廃

 クレジットカード支払いや障がい者割引、配車アプリなどの手数料は、会社が負担するものであり、運転者負担になることがあってはなりません。したがって査定において、これらの手数料が人件費ではなく、その他運送費として適切に原価計算される必要があります。
 職場に不適切な運転者負担があるならば、運賃改定の際にそれを撤廃するのは当然というコメントを国交省もしています(22年9月1日レクチャーより)。

3 需給調整でスリムな経営を

 タクシーの供給過剰を放置し、ムダな遊休車両を抱えたまま、利用者に値上げの負担をお願いすることは不誠実です。
 また、供給過剰のままでは増収にもなりません。適切な需給調整=減車により、多すぎるタクシーを減らし、ムダを省いた経営にする必要があります。(次号『【3】国も認めた労働条件改善の正当性』予定)

タク年収305万円、格差は198万円へ

準特定地域の解除の動きを注視

タクシーと他産業労働者の労働条件比較

        →記事

雇調金の特例措置、3月末で通常制度へ移行

コロナ前より通常措置の支給要件やや緩和

雇調金

 厚生労働省は2月28日、雇用調整助成金の特例措置について、23年3月31日に終了すると発表しました。
緩和
 23年4月1日以降の休業については支給要件を満たせば通常制度を利用することができます。コロナ前よりも支給要件がやや緩和され、利用しやすい制度設計となっています(左)。まだ検討中の案であり、6月頃まで経過をみてから厚生労働省令の改正等を行うと思われます。
 雇調金の特例措置が終了した理由として、コロナの感染状況が落ちつき、経済が動き出してきたことがあげられます。19年と比べて21〜23年のタクシーの輸送人員がどれだけ減少したのかという推移をみると(グラフ)、直近半年は、おおむね安定して復調していることがわかります。
 しかし、経済不況などでタクシーの需要がこの先どう変動していくかは不透明です。政府が明言している消費税の増税などで乗り控えが起こり、営業収入が落ち込む可能性もあります。これからも適切に利用できる制度を求めていくことが重要です。
 自交総連は、直近では3月2日の省庁交渉で、労働者にとって使い勝手のよい、不正が発生しない雇調金の制度改善を行うことを厚労省へつよく要請しています。

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