タクシー運転免許構想(案)

1999年1月26〜28日
自交総連第21回中央委員会

はじめに

 −なぜタクシー運転免許が必要なのか

 自交総連が、これまでに実施してきた海外でのタクシー実態調査のなかで、きわめて印象深い報告として強調されてきた言葉に、ローマのタクシードライバーが語った「オレの息子もタクシードライバー」というものがあります。
 つまり、タクシー労働者の労働条件が一定以上の水準に保たれ、安全と高いサービスを提供することで市民からも信頼されるなど社会的地位が確立されているところでは、タクシー労働者はみずからの仕事に誇りをもち、自分の息子(娘)にも同じ仕事についてほしいと望み、それが実現することは自慢の種となっているということです。
 ふりかえってみて、わが国では、わが子にもタクシードライバーになってほしいと願うタクシー労働者は、残念ながらほとんどいないといわざるをえません。これは、タクシーの仕事そのものに問題があるわけではありません。問題は、労働条件が悪いことです。全国平均で年間収入は360万円と男子常用労働者より194万円も低く、労働時間は逆に481時間も長い(1997年)という劣悪な労働条件こそが、タクシー労働者から仕事に対する誇りを奪い、希望を失わせているのです。
 タクシー労働者がみずからの仕事に誇りをもっている国では、例外なくタクシーの需給調整、運賃、運転者の資格などが−その方法はいろいろであっても−結果的に規制されています。とくに、タクシードライバーの資質が高いことで有名なイギリス・ロンドンでは、タクシードライバーになるためには、たいへんきびしい試験に合格しなければならず、そのことがドライバーの資質を高め、さらにタクシーの需給調整の機能をも果たしています。
 自交総連が、早くから「タクシー運転免許」の制定を提唱してきたのも、それが、タクシー労働者の労働条件を向上させて、みずからの仕事に誇りをもって働けるようにし、利用者・国民にとっても安全で利用しやすいタクシーを実現するための必要不可欠の条件だからにほかなりません。
 いま政府・運輸省は、2001年度までにタクシーの需給調整規制を撤廃するという非常識な政策を、世界中での失敗例にもかかわらず強行しようとしています。この規制撤廃政策は、国民の安全を軽視するという点で、人権を軽んじるものといわなければなりません。
 私たちは、タクシー規制撤廃を阻止するために、ひきつづき全力でたたかいますが、同時に、規制撤廃に伴う「運転者の質の確保方策」が運輸政策審議会(運政審)で検討されているという情勢をふまえて、タクシー運転免許の制定をつよく求めるものです。
 以下に、将来像も含めて、自交総連のタクシー運転免許構想(案)を提起しますが、この構想は確定したものではありません。いわばひとつのたたき台として、各界から広範な意見が寄せられることを期待して提案するものです。寄せられた意見もふまえて、可能な問題から協力・共同を広げて、一歩づつ実現していく道を探りたいと考えています。

1.タクシー運転免許制定の意義

 (1) これまでの経過

 自交総連は、1985年の第8回定期大会で「政策要求実現大運動」を提起、ハイタク労働者の資質向上のために「ハイタク運転免許の制定」が必要であることを初めて提言しました。
 その後、タクシー規制緩和の動向など新たな情勢にあわせて1993年にまとめた政策プロジェクト報告では、「プロドライバーとしての資質向上と労働力の確保をはかるため、タクシー運転免許の新設を行うとともに、社会的水準の労働条件を確立できるようにする」という提言を改めて確認しています。さらに、この報告では、試論としてタクシー運転免許のイメージを次のように明らかにしました。
 ・年齢制限は21歳以上68歳まで
 ・地理試験を充実する
 ・道路運送法および労働法規の基礎的な知識を与える
 ・利用者に対する接客マニュアルも含める
 1996年12月、運輸省は2001年度までにタクシーの需給調整規制の撤廃をめざすという政策の大転換を行い、翌年には規制撤廃後の環境整備方策を運政審に諮問、1998年度中には答申が出されることになっています。自交総連は規制撤廃阻止を全面的に掲げつつ、運政審が、規制緩和の立場からとはいえタクシー運転者の資質向上を審議することをふまえて、具体的な政策要求を行い、そのなかで改めてタクシー運転免許の制定を求めてきました。

 (2) タクシー運転免許制定の今日的意義

 運政審答申が1999年3月にも出され、運輸省が具体的な政策の策定作業をすすめるという今日の情勢のなかで、タクシー運転免許を制定する意義は以下のようにまとめることができます。
 第1は、タクシーの安全確保、サービスの維持・向上のための必要性です。
 タクシーは、公共的輸送機関として不特定多数の者が利用し、車内で乗客と運転者が1対1で対応する特質をもっています。このため、そのサービス水準は大部分が運転者の質に依拠しています。また、利用者の側からあらかじめ特定の運転者を選択することは困難で、乗ってみて目的地に着いてみなければ、最終的なサービスの水準はわかりません。このため、偶然に乗った車の運転者が誰であろうとも、必要最低限のレベルを維持していることが求められます。安心してタクシーを利用するためには、タクシー運転免許制度によって運転者の質が一定度のレベルに保たれていることが必要なのです。
 第2は、タクシー運転者の労働条件の向上、社会的地位の確立のための必要性です。
 タクシーの安全・サービスを支えているのが個々の運転者であるということを考えれば、運転者に社会的水準の労働条件が確保されていてこそ、安全と良質のサービスが確保されるということになります。社会的にも認知されたタクシー運転免許制度を確立することで、資格をもった運転者にふさわしい社会的水準の労働条件を確保し、タクシーを誇りをもって働ける仕事にする必要があります。
 第3は、いかなる条件のもとでもタクシーという産業とそこで働く労働者の基盤を維持する最低限の担保措置としての必要性です。
 政府・運輸省がすすめる規制緩和政策によって、タクシーの将来は予断を許さない状態になっています。もちろん自交総連は、全力をあげて規制撤廃を阻止するためにたたかい、その勝利の展望もありますが、万が一、政府によって規制撤廃が強行されるという場合もありえます。このタクシー運転免許構想は、そのことを想定して提起したものではありませんが、そうした場合でも、タクシー運転免許制度が確立されることになれば、タクシー運転者の数が限られることによって、無制限なタクシー台数の増加を抑制することができ、タクシーの質の低下にも歯止めをかける条件が残されることになります。

2.タクシー運転免許構想

 (1) 現在の免許制度

 自交総連のタクシー運転免許構想を示すにあたり、まず、タクシーにかかわる現行の免許制度はどのようになっているのかをふりかえってみましょう。

1) 普通第二種運転免許
 現在、タクシー運転者として営業車を運転するためには、普通第二種運転免許(警察庁=公安委員会の管轄)をもっていなければなりません。普通二種免許の受験資格は、21歳以上、普通一種免許を受けかつその期間が3年以上の者とされ、適性試験、技能・学科試験の内容も普通免許よりも高度なものとなっています。とくに学科試験については、旅客自動車運転者の心得(道路運送法)を含む試験が行われています。
 現在の普通二種免許保有者は約126万人(大型二種と合わせると249万人)、このうち65歳未満は97万人です。これに対し実際のタクシー運転者は41万人で、有資格者の4割程度にとどまっています。せっかく免許をもっていても、実際には仕事の条件が悪いのでタクシーに乗っていない、あるはやめてしまったという人が多いことがわかります。また、普通二種免許保有者の年代構成をみると、40歳未満は7万人で全保有者の6%にすぎません。若い人は二種免許取得に魅力を感じていないという現状を物語っています(図1参照)。
 一方、運転代行や旅館・学校・福祉施設などの送迎バスの運転については、事実上旅客を輸送するものであるにもかかわらず、法的に二種免許の取得は義務づけられていません。

2)タクシー近代化センター登録制度(東京・大阪)
 東京と大阪の指定地域については、タクシー業務適正化臨時措置法によって、タクシー近代化センターの運転者登録を受けないとタクシーに乗務できないことになっています。タクシーに乗務しようとする者は、地理試験に合格したうえで、登録を申請し、事業者を通じて運転者証の交付を受けます。法令違反等により登録が取り消される場合もあり、その場合は乗務できません。
 タクシー近代化センターは、事業者負担金(保有台数に応じて納入)を主な収入として運営されており、実態としては独立性が薄いのが特徴です。そのためもあって(採用した労働者が合格しないと事業者が困るので)、地理試験は容易で実質的にはあまり選考の意味をなしていません。運営面では、実態を無視した運転者の取り締まりに偏重しているなどの問題があります。

3)個人タクシー免許
 個人タクシーは、法律上は事業者であって、かなりきびしい資格要件が定められています。年齢は申請時65歳未満、二種免許を有し、法人運転者としての運転経歴が10年以上、申請事業区域での運転経歴が5年以上、過去3年間交通違反なし、などの運転者としての要件に加え、資金計画、車庫などの事業者としての資格も満たしていなければならないことになっています(運輸大臣が認可)。
 地理・法令試験の合格率は1997年度の場合、62.6%(関東運輸局平均)で、かなりきびしいものです。試験合格者が新規免許枠を超えた場合は抽選となります。75歳未満65歳以上の事業者から65歳未満の者への事業免許の譲渡譲受が認められています。
 現在の個人タクシー制度は、法人タクシーの運転者のなかで特に優良な運転者について個人タクシー免許を付与するという趣旨の制度です。あくまで法人タクシーを補完するものとしての位置づけです。したがって法人での運転経験がなければ申請できず、認可数も、明確な基準はないものの一定数に限られ、「流し」の需要がある地域のみという基準から、個人タクシーのない地域もあります。個人タクシー免許を受けると、年齢によって更新期間が短くなりますが、上限はないため、70歳以上の運転者も4000人(9%)近くいます。

4)外国のタクシー運転者規制
 諸外国においては、とくに欧米では個人タクシーが主であり、日本のような法人タクシー制度のほうが少数です。したがって免許についても、事業免許と運転免許とがありますが、試験あるいは資格要件として求められるものをまとめると図2のようになります。健康状態や犯罪歴=法令違反状況などが、事前にチェックされるのは共通している他、地理試験(知識)を運転者の条件としているところが多くなっています。

 (2) タクシー運転免許の内容

1)免許の形式と管轄すべき行政庁
 新たに制定すべきタクシー運転免許は、タクシーの運転に従事する者は、雇用労働者、個人事業者を問わず、また全国どこで乗務する場合でも、すべてこのタクシー運転免許の保有を義務づけるものとすべきです。現在の普通二種免許制度は残して、二種免許取得のうえで、さらにタクシー運転免許を取得するという形が望ましいと考えます(図3)。
 これに対して、現在の普通二種免許の内容を強化してタクシー運転免許とするという方法も考えられます。しかし、旅客を輸送する仕事はタクシーだけとは限らないことから、二種免許をタクシー運転免許とした場合は、タクシー以外の旅客輸送に対応する運転免許を新たに想定しなければならなくなります。さらに、二種免許を管轄するのは警察行政であり、接客や地理、労働法規など想定されるタクシー運転免許の試験内容をとりあつかうには限界があると考えられます。そのため、二種免許は運転代行等の運転者にも取得を義務づけるなどその範囲を拡大して生かしつつ、新たにタクシー運転免許を制定することが望ましいわけです。
 タクシー運転免許を管轄する行政機関については、旅客運送にふさわしい運転者に免許を与えるという性格から、また全国一律に実施すべきであることから、運輸行政が管轄すべきです。一方、地方自治の拡充など今後の社会構造の変化もふまえ、とくにタクシーの台数(需給調整)を含めた地域の総合的な交通政策を実行していくうえで、地方自治体が積極的に関与できるようなしくみを工夫する必要があります。
 例えば、現行の通訳案内業(国家資格)については、試験は運輸大臣が管轄し(実際の試験は国際観光振興会が代行して行っている)、試験合格者は都道府県知事に登録を行い、免許証が発行されることになっています。更新制度はありませんが、取り消し等は都道府県知事の権限で行われることになっています。
 タクシー運転免許についても、運転者として必要なレベルは国が責任をもって定めて試験を行い、合格者は地方自治体(都道府県)もしくは地方自治体を含めたタクシー事業を管轄する機関に登録をすることで、タクシー運転者としての資格を得ることにする方法が考えられます。
 タクシー事業を管轄する機関を設ける場合には、地方自治体を含めたものとするとともに、労働組合・利用者の参加など組織の公平性・独立性を維持する措置が必要不可欠です。現在、東京・大阪にあるタクシー近代化センターと類似の組織を各道府県に設ける場合も同様で、とくに事業者からの独立性を確保する制度的保障が必要です。

2)申請資格要件
 タクシー運転免許を申請しようとする者は、以下の要件を満たしていなければならないものとします。
 ○普通第二種免許を保有していること(年齢21歳以上、普通自動車の運転経験が3年以上)。
 ○旅客を乗せる自動車を運転するにふさわしい肉体的・精神的な健康状態にあること。ただし、運転補助装置等を活用することで自動車の運転が可能な身体障害者については十分配慮する。
 ○日本国内で就労できる資格があること。
 ○悪質な犯罪歴、悪質な交通事故・違反歴がないこと。(例えば、犯罪歴については現行道路運送法の事業免許の欠格事由=1年以上の懲役または禁固の刑に処せられ、その執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から2年を経過していない者等を援用することが考えられる)

3)試験内容
 試験は、筆記もしくは口答試験とし、その内容には、以下のものを含むものとします。
  1) 法令
 ○道路交通法および関係法令の内容
 ○道路運送法および関係法令の内容
 ○労働基準法および関係法令の内容(自動車運転者の労働時間等の改善基準告示および関係通達を含む)
  2) 接客知識
 ○旅客の接遇に関する基本的な知識
 ○身障者・病人等の特性と車両乗降時の介護方法、車両に乗車して移動する際の注意事項
  3) 地理知識
 ○登録しようとする事業区域の主要な道路、建物、観光施設等

4)免許の更新、停止・取り消し等の処分要件
 更新等の免許の管理は、地方自治体もしくは地方自治体を含めた機関が行うものとします。
 更新期間は3〜5年程度とし、健康状態のチェック等必要な検査を行います。60歳以上の者については更新期間を1年とするなど、健康チェックの頻度をあげる措置が必要です。
 安全性および新規免許者の参入を確保するため、68歳を上限として更新を認めないこととします。68歳としているのは、通常の雇用者の定年年齢は65歳であるが、タクシー運転免許の場合は最低取得年齢が21歳(18歳より3歳多い)であることを考慮して、65歳に3歳を加えた68歳としたものです。
 この年齢は、退職後にきちんと生活できる年金制度の確立を前提としたものであり、社会通念によっても変化するものです。政府による年金制度の改悪がつづいている現状では、当面は上限年齢をもっと引き上げることも考慮しなければなりません。
 重大な法令違反、非行等があった場合、その程度に応じて免許の停止、取り消し等の処分を行います。処分は、公正な第三者機関による認定を必要とし、当人の異議申し立ての権利を認めるなど、十分に人権に配慮したものとする必要があります。

5)現職のタクシー運転者への適用方法
 タクシー運転免許を新たに制定するにあたって、現にタクシー運転者としての業務に従事している者(個人タクシー事業者を含む)については、一定の講習を受講することによって試験を免除し、タクシー運転免許を付与することとします。
 講習の内容は、労働基準法関係や身障者の車両乗降時の介護方法など、従来の二種免許の試験範囲を越えている部分について行い、新しくタクシー運転免許に合格した者と遜色のないように十分な知識を学ぶようにします。
 地理試験については、当該地域での一定のタクシー運転経験者は免除しても、とくに問題は生じないと考えられます(例えば、近代化センターでの地理試験の免除条項=当該地域内において登録の申請前2年前までに通算90日以上の当該地区での運転経験者は地理試験は免除される等を援用することが考えられる)。

6)個人タクシーの扱い
 タクシー運転免許ができても、当面は現行制度の基本を維持します。
 ただし、個人タクシー運転免許試験のうち地理試験は廃止し(タクシー運転免許試験で実施するので)、試験の内容は個人タクシー事業の運営に関するものを中心とします。また、68歳の年齢制限は個人タクシーにも適用することとします。

3.タクシー運転免許制定にむけた展望、当面する要求と課題

 (1) 実現にむけた展望とタクシー運転免許への接近

 タクシー運転免許の制定は、ある程度長期的な展望をもった闘いであり、その実現にむけては世論の支持が必要です。組合員の学習、タクシー労働者・利用者・国民への宣伝、関係団体との協力・共同など、ねばりづよい運動を進めていくなかで、実現の展望をきりひらいていきます。
 そのためにも、現に利用者と接している私たちタクシー労働者が、日々の仕事を通じて利用者から理解され、支持されるように努める必要があります。
 すでに、各地方では、身障者やお年寄りの利用をいっそう広げることを展望して、ホームヘルパーの資格を取得したり、介護の学習をするなどの運動がすすめられ、そのなかでは、講習を受けて「タクシー労働者としての意識が変わった」「お客さんから『ありがとう』といわれるようになって、誇りを感じている」などの経験が生まれています。
 タクシー運転免許が制定される前でも、労働者みずからの努力で、免許に含まれるべき内容を身につけていく意気込みが必要です。
 もちろん、労働者としての社会的水準の労働条件の確立が前提となるべきことはいうまでもありませんが、困難な現状のもとでも、当然のモラルは守り、労働者としてできることをやっていくことが、利用者・国民からの支持を広げるうえでも大切です。
 これらのとりくみをすすめながら、当面しては、以下の課題にとりくみます。

 (2) 当面の緊急対策

1)二種免許の緩和反対、内容の強化・充実を
 タクシー運転免許が実現するまでの間の経過的な措置として、二種免許の強化を求めていきます。
 現在の二種免許試験では、「旅客自動車運転者の心得」として実質的に道路運送法の内容にわたるものも出題されていますが、これを法的・制度的にも道路運送法の知識を義務づけるようにするとともに、労働基準法(改善基準を含む)の内容、とくに労働時間の制限やノルマ強要、刺激的な賃金体系の禁止など安全運行に関わる問題を試験内容に加えるようにします。
 実技試験の内容も、旅客を輸送する運転者にふさわしい高度な運転技能(マナーも含む)を認定する免許制度として強化・充実させます。
 また、現在は適用となっていない運転代行の運転者などにも二種免許の取得を義務づけるようにするべきです。
 一方、運政審での論議のなかで、全乗連は「第二種運転免許の取得機会の拡大(指定教習所での取得、取得年齢の19歳への引き下げ、経験年数の引き下げ等)を図る必要がある」との要望を提出しています。これらの要求は、規制撤廃を前提に大量の増車で生き残りをはかるため、大量のタクシー労働者を確保したいという資本の意図を背景にしたものです。二種免許の資格要件を緩めることは、安易なタクシー労働者の粗製濫造につながるものとして反対していきます。
 若年層の交通事故の多さからいっても、二種免許の取得年齢・経験年数の引き下げを認めることはできません。
 指定自動車教習所での取得は可能とすべきですが、職業運転者にふさわしい高度な運転技術、交通安全に対する深い理解が得られるような科学的で厳格な教習カリキュラムが確立されることを条件とします。

2)登録制への対応、地理試験の全国的実施を
 現在、東京・大阪で実施されている地理試験をその他の地方でも実施するようにし、そのための運転者の登録機関を各道府県に設けるよう要求します。
 運政審答申は1999年3月までに出されることになっていますが、そのなかでは運転者の質の確保方策として、「登録制」の実施が有力視されています。すなわち、現在、東京・大阪のタクシー近代化センターが行っているような運転者の登録制を全国的に拡大しようというものです。このなかには地理試験の実施は含まれていないようですが、地理試験を含めた制度とするべきです。当面は政令指定都市からはじめて、段階的に全国に拡大するということも考えられます。
 しかし、このような登録制の拡大については、以下のような弱点と懸念がありますので、これらの懸念を解消する措置が不可欠です。
 運輸省が想定するであろう登録制は、タクシー運転者の資質を入口でチェックして向上させようというものではなく、事後的に問題のある者を排除しようというものです。一方では規制緩和で大量の参入を想定したうえで、事後チェックのみで運転者の質が十分に規制できるとは考えられません。この点では不十分な制度であり、限界があることを知っておく必要があります。
 また、登録を行う組織については、事業者団体の自主的な組織を想定しているようですが、その組織に事業者からの独立性がなければ、実効が伴わないばかりか、労働者の人権を無視した取り締まりに偏重したり、労務管理等に悪用される危険性があります。現に東京・大阪のタクシー近代化センターでは、このような問題点が生じていますので、事業者に左右されない組織とする必要があります。

4.タクシー事業の将来

 タクシー運転免許の制定は、タクシー事業の将来に大きな影響を与えることになると考えられます。
 タクシー運転免許がタクシー運転者の資質の向上をめざすものである以上、その試験は一定の難度をもったものにする必要があり、誰でも、何の勉強もせずに合格できるという試験では意味がありません。
 一定の難度をもった試験を実施して合格者を選考するということになれば、当然、タクシー運転免許保有者の数は限られることになり、その結果、タクシー運転者の社会的地位は上がり、労働条件の向上も期待できます。タクシー運転免許構想は、まさにそのような状態を希望したものです。一方、そうした状態が実現したとすれば、試験を突破した有資格者に、従来と同じように法人事業者に雇用される道のみしか選択権がないというのは不合理といわざるをえないでしょう。難しい試験であるならば、それなりの利点、特典がなければ資格を得ようという人はいません。
 そうした事情を考えると、将来の展望としては、タクシー事業は、資格を生かして個人を主体に営業できるという方向に移行していかざるをえないと考えられます。もちろんその場合には、タクシー事業免許制度をどのようにしていくかという課題を解決していかなければなりません。どのような事業免許制度になるにしても、需給調整は必要であり、参入はなんらかの方法で規制されなければならないことは当然です。
 いずれにせよ将来的には、タクシー運転免許試験に合格した者は、個人タクシーを主体として営業したり、法人事業者に雇用されたり、あるいは労働者協同組合を組織するなど、いくつかの方法の中から、自分にあった方法を選択することが可能になる方向へと変わっていくことになるでしょう(図4参照)。
 タクシー運転免許の制定は、タクシーという仕事のあり方に、こうした新しい地平を切り開く意味ももっています。
 タクシー運転者が、誇りをもって働ける日が一日もはやく来るように、力をあわせて、タクシー運転免許を実現しましょう。
 自交総連はそのために全力で奮闘する決意です。

以  上

[図1] 年齢別・車種別運転免許保有者数(97.12.31現在)
[図2] 諸外国でタクシー運転者に求められる資格要件
[図3] タクシー運転免許構想のイメージ(モデル)>
[図4] タクシー事業の将来像




自 交 総 連