2008.8.11 自交総連情報タイトル

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 自交総連は、タクシー規制緩和見直しを敵視する規制改革会議の見解に抗議する見解を明らかにしました。

タクシー問題に関する規制改革会議の見解に抗議する

2008年8月11日
自交総連

 規制改革会議(内閣総理大臣の諮問機関)は7月31日、「タクシー事業を巡る諸問題に関する見解」(以下「見解」という)を発表した。この「見解」は、タクシーの現状を深く分析することもなく、すでに破綻が明らかな規制緩和政策にあくまで固執する立場から、国土交通省のタクシー規制緩和見直し政策を非難するものであり、その無責任・非現実的な論評に対し、現に規制緩和の被害を受けて日々苦しんでいるタクシー労働者の立場から強く抗議するものである。

 1.「見解」は、規制緩和のプラスの側面を忘れてはならないとして、雇用の創出と待ち時間の短縮、多様な運賃・サービス等の消費者利益の向上をあげている。
 タクシー運転者の数は、2002年2月の規制緩和後、2004年度末までに約2.5万人増加した。ところが翌年からは減少に転じ06年度末までに約1.8万人減り、結局、差し引き約7000人の増加にとどまっている。これは、リストラや企業倒産などで失業した労働者が一時的に流入したが、あまりの労働条件の悪さから再び流失が起きているということを示している。7000人程度の増加を「雇用の創出」と評価することが不適切であることはもとより、生活できないような劣悪な労働条件の雇用がいくら増えたとしても、それを社会のプラスということなどできないことは明らかである。
 また、待ち時間の短縮についても問題が多い。確かに現在はタクシー乗り場にはタクシーがあふれているから、乗客は待つことなく乗車できる。しかし、それが規制強化で乗りにくくなるかというと、決してそんなことはない。タクシーの需給関係を示す指標に実車率があるが、一般に実車率は、55%を超えれば乗客が乗りにくくなり、50%を下回ると運転者が乗客の少なさを実感するようになるというのが日々道路を走っているタクシー運転者の経験則である。現在の実車率は都市部で最高クラスの東京でも45%前後、他の都市では40%を下回るところも多く、あまりに低すぎるのである。仮にこれが適正な水準の50%台に戻ったとしても、利用者利便が損なわれることはない。
 逆に低すぎる実車率、すなわち極度の供給過剰は、さまざまな弊害を生んでいる。あふれるタクシーが車線をふさぎ、タクシーの違法な客待ちもあとを絶たない。全国平均の実車率が41.6%(法人のみ)だった2005年度の実績から試算すると、輸送にも利便にも何ら貢献しない無駄なタクシーの空車走行は年間21.3億kmに達し、排出されたCO2は62.4万トンに及ぶ。数分の待ち時間と引き換えに、地球温暖化防止にも逆行し、運転者に劣悪な労働条件を押し付けることが「消費者利益の向上」というのであろうか。
 運賃の多様化は、消費者が自由に選択できないタクシーにあっては、有意義な効果は少なく、低運賃競争による安全コストの削減という弊害の方がはるかに大きい。多様なサービスの導入というのは当然のことであるが、規制緩和以前から福祉タクシーや過疎地の乗合・通学タクシーなど創意・工夫されてきたものであり、むしろ規制緩和による効率化・コスト優先の競争が、手間とコストがかかる障害者や移動制約者むけのサービスを低下させているのが実情である。

 2.タクシー運転者の待遇悪化の根拠が薄弱であるという「見解」の論旨には、つよい憤りさえ感じざるを得ない。
 「見解」は、規制緩和と賃金の減少や事故率の上昇は必ずしもリンクしていないとして、「(規制緩和後)賃金の減少と事故率の上昇傾向は緩やかか、横ばい」であるといい、「見解」と同時に公表された参考資料には「年間賃金」「走行100万kmあたりの事故発生件数」等のグラフが示されている。
 しかし、規制改革会議が示したグラフからも、平成8(1996)年度から平成17(2005)年度まで、年間賃金が大きく減少していることは、はっきり見てとれる。タクシー労働者の賃金の減少は92年から始まり、事故の増加も同時期から始まっている。それは、バブル経済の崩壊による長期の不況に突入した時期であり、当時は規制緩和前でタクシー台数は横ばい状態だったにもかかわらず、不況による急速な需要の減退が相対的なタクシー過剰を生み出したのである。そこに追い討ちをかけるように02年から規制緩和が強行された。そのため、景気の低迷がやや落ち着きをみせた(庶民の実感はなかったが、政府は史上最長の景気拡大といっていた)時期にもタクシー労働者の賃金は低下し続けたのである。これを低下が「緩やか」として規制緩和の悪影響と切り離そうとするのは恣意的な分析である。
 事故発生件数については、平成13(2001)年から警察庁の交通事故統計年報では従来「タクシー」の中に含まれて集計されていた「タクシー以外の乗用車(福祉専用車、患者輸送車等)」の事故(約1割を占める)が別に集計されるようになったので、外見上、事故が減ったように見えるだけであることをあえて無視して、タクシーの事故が減ったかのように描いているのである。
 しかも許しがたいことに、同参考資料には、「タクシー運転者と他産業の従業員の年間所得の推移」として、タクシー運転者(平成19(2006)年=342万円)と給仕従事者(同328万円)、福祉施設介護員(同322万円)の年間所得が掲載されている。この資料は一体何を意図しているのか――タクシー運転者は、給仕従事者(飲食店従業員、旅館接待案内係等)や福祉施設介護員より賃金が高いということを示したつもりなのか。介護や給仕の仕事につく労働者の賃金も長時間労働にもかかわらず年間300万円程度で低すぎることが問題なのに、そうした低賃金の労働者をことさら並べて、お互いに我慢しろとでもいうのであろうか。
 規制緩和すればうまくいくはずだという机上の経済理論にしがみつくあまり、現に年収2〜300万円で暮らす労働者の苦しみを考慮することもできなくなった非人間的な論理には、きびしく抗議するものである。
 「見解」はまた、事故への対応は悪質な事故を発生させた運転手や会社に対する行為規制で対応すべきであるという。行為規制すなわち事後チェックの有効性については、まさに交通政策審議会のタクシーワーキンググループでも再三論議されてきたところである。国土交通省も、規制緩和後に、行政処分等の基準の通達を6年半で10回も改定するほど、監査や処分の強化対策を行ってきた。しかし、行為規制のみでは、安全も労働条件も維持できず、事故も悪質事業者も淘汰されないという現実を直視したワーキンググループでの議論を踏まえて、今回の参入・増車の抑制措置が行われたのである。
 さらに「見解」は、労働条件改善は社会政策を通じて実現されるべきものともいうが、「見解」をまとめた規制改革会議運輸タスクフォース主査の中条潮委員は、「運転手の待遇改善は最低賃金を守るなど労働法でやればいいこと」(日本経済新聞2008年7月4日付)とも発言している。最低賃金は時給687円(2007年の全国平均)である。同氏の考える社会政策というのは、時給687円以上ならばよしとするものなのか。この低すぎる最低賃金さえ守られない事例が多いことから、最低賃金を守らせるのは当然だが、時給687円で労基法どおり週40時間働いても年収は143万円にしかならないのである。現実を無視した暴論といわざるを得ない。

 3.「見解」が、参入・増車規制は経営努力をしてこなかった事業者を利するもので、創意工夫を制約する恐れがある、というのも事実に反している。
 規制緩和後、需要がないにもかかわらずタクシー台数が増え続けるというのは、タクシー運転者の賃金が歩合給であるために、会社の売上高が伸びず、あるいは減少しても人件費が過大になる恐れがないことが大きな要因となっている。タクシー事業者は、事業家なら本来最も考慮すべき需要の予測を真剣にすることなく、安易かつ無計画に設備投資(増車)を行った結果、今日のタクシーの諸問題が引き起こされたのである。
 今回の国土交通省の特定特別監視地域指定等の措置は、事業者に需要や労働条件の計画策定を求め、結果と予測が乖離していれば勧告等をすることで無計画な増車を抑制しようというもので、増車をするならば創意工夫が必要であるということを促すものである。
 新規参入についても、市場分析と参入後の健全な事業運営という当たり前の企業努力を新規参入事業者に求めるものであり、充分に創意工夫し法令を遵守する意思と能力さえあれば、何ら参入が制限されるものではない。

 4.以上のように「見解」は、事実をねじまげてまで規制緩和に固執し、その被害を受けているタクシー労働者と利用者・国民に、もっと我慢しろといわんばかりのものである。
 今回の国土交通省の措置は、再規制とまでいえるものではなく、極限にまで達した規制緩和の弊害を緊急に是正する最低限の増車・参入の抑制措置にすぎない。その措置でさえ「極めて不適切」と敵視する規制改革会議は、一体、誰の意を体して「見解」を作成したのであろうか。
 規制緩和の弊害は、タクシーに限らず、建築、食品、農業、金融、労働政策など社会のあらゆる分野に及び、安全・安心の崩壊、格差の拡大、ワーキングプアの増大、物価の高騰を招き、社会不安さえ引き起こしている。この規制緩和=構造改革を推し進めてきた規制改革会議が、自らの罪悪を反省するどころか、「タクシー事業における再規制が他分野に波及する可能性についても重大な懸念を持っており」「必要に応じて行動していく所存である」と規制緩和見直しに恫喝ともいえる居直りをしていることに、その本音とあせりが表れている。
 われわれは、特定の大企業や特定の大金持ちだけに空前の利益を上げるチャンスを提供する規制緩和=構造改革路線ときっぱり決別する政治を求め、タクシー労働者の権利と利用者・国民の利益が等しく守られるタクシーを実現するために、ひきつづき全力で行動していくものである。

以  上

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