2011.7.22 自交総連情報タイトル

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最低賃金の大幅な引き上げを
[中央最低賃金審議会に意見書] 
経営の「慎重」姿勢に反論

 自交総連は7月19日、中央最低賃金審議会第3回目安小委員会に、最低賃金の大幅引き上げを求める意見書を提出しました。
 今年の最低賃金の審議では、経営側の慎重姿勢が目立ち、経営側委員は、「節度ある目安を」と主張、据え置きをねらっています。全タク連も13日の正副委員長会議で「供給過剰が解消に至っていないことや震災による需要減などを踏まえて慎重な審議を求めていくこと」を確認したと報道されています。
 こうした最賃の引き上げを押しとどめようという動きに対して、「これ以上、上がったら最賃が払えない」というタクシー経営者の意見に反論し、最賃引き上げの重要性を訴えるために意見書を出しました。今後、中央で目安がきまると、地方最低賃金審議会で具体的な引き上げ額が審議されます。
 大幅な引き上げとなるように、地方でも意見の提出や宣伝行動で世論を喚起することが大切になってきます。


【意 見 書】

2011年7月19日

厚生労働大臣  細川 律夫 殿
中央最低賃金審議会目安小委員会委員 各位

全国自動車交通労働組合総連合会(自交総連)
中央執行委員長  飯 沼  博

  

最低賃金の大幅改善を求める意見書
最低賃金法違反が蔓延するタクシー労働者からの訴え

 1.自交総連は、タクシー労働者を組織する労働組合です。従来から、全国一律1000円以上の最低賃金の確立を求めてきましたが、一日も早く最低賃金が1000円に近づくように、地域別最低賃金の今年度における大幅な引き上げを改めて求めるものです。

表1 タクシー運転者の所定内給与が
地域別最低賃金以下の地方

(2010年6月賃金、厚労省:賃金センサス)
地方名 総実労
働時間

(時間)
所定内
給与額

(千円)
所定内
給与の
時間額
(円)
最 低
賃金額

(円)

差 額

(円)
徳 島 202 92.6 458 633 -175
宮 崎 209 118.8 568 629 -61
岩 手 210 126.6 603 631 -28

 2.タクシー運転者の所定内給与の時間額は、2010年6月分の賃金構造基本統計調査によると、徳島県458円、宮崎県568円、岩手県603円となっており、この3県では同年度の地域別最低賃金を最大175円も下回っている実態です(表1)。また、所定内給与の時間額と地域別最低賃金の差が100円以内となっている地方も宮城、長崎など11道府県あり、これらの地方をはじめ全国で相当数の労働者が最低賃金以下の違反状態で働いていると推定できます。

 このように、最低賃金法違反が蔓延するタクシー業界にあっては、経営者が最低賃金の引き上げを嫌い、これまでも各都道府県最低賃金審議会に宛てて最低賃金引上げ反対の意見書を提出してきた経緯があります。全国の経営者団体である全タク連も本年7月13日に開いた正副委員長会議で「目安審議に当たって供給過剰が解消に至っていないことや東日本大震災による需要減などを踏まえて慎重な審議を求めていく」ことを確認したと報道されています。

 しかし、こうした主張は、経営者(雇用主)としての社会的責任を十分自覚しないものといわざるを得ません。

 タクシーで、最低賃金以下あるいは最低賃金ギリギリの低賃金が蔓延するようになったのは、規制緩和が大きな原因です。

表2 規制緩和前後の
タクシー台数と営業収入

(国土交通省資料による、個人タクシーも含む)
年度 タクシー
台 数
(台)
営業収入
総 額
(兆円)
1台当たり
営業収入
(万円)
2000 256,343 (100) 2.2456 (100) 876 (100)
2008 271,327 (106) 1.9439 (87) 716 (82)

 タクシーの規制緩和がされたのは2002年2月からです。規制緩和前の2000年度と間近の2008年度を比較すると、表2にみるようにタクシー台数は25万6343台が27万1327台となる一方で、営業収入は2兆2456億円が1兆9439億円にまで低下しました。その結果は明白で、1台当たりの営業収入は876万円から716万円へ2割近くも大きく低下することになりました。タクシー運転者の賃金は、ほとんどが歩合給ですから、売上げが落ちれば、それはそのまま賃金の低下となります。その結果、タクシー運転者の賃金は全国平均で年収245万円(2009年、厚労省「賃金センサス」)にまで低下し、前述のような最低賃金法違反が蔓延する業界になってしまったのです。

 3.だからといって、もし最低賃金がこれ以上引き上げられたら支払いきれない、経営が成り立たなくなるという経営者の主張に正当性があるでしょうか。

 この主張には、二つの根本的な誤りがあると指摘せざるを得ません。

 一つは、このような現状を作り出した自らの責任をまったく棚上げにした主張だということです。規制緩和のもとでタクシー台数を増やし続けてきたのは経営者自身です。総売上が増えないなかで車両を増やせば、1台当たりの売上げは減り、運転者1人当たりの賃金が下がるのは自明なことです。にもかかわらず、運転者の賃金が歩合給であるために、売上げが減れば自動的に賃金も減って、人件費比率の上昇という経営への悪影響を考慮しなくていい仕組みに依拠して、車両を増やしつづけたのです。需要に見合った減車をすれば、最低賃金を引上げても支払うことは十分に可能です。無計画で身勝手な経営方針のツケを運転者の賃金低下で補い、最低賃金に抵触するような事態になった現状を、このまま放置して、見逃してほしいという主張を認めるわけにはいきません。

 もう一つは、払える範囲で最低賃金を低くとどめておくことは、長期的にみて、結局は業界の体質をいっそう弱めることにしかならないという点です。現在、タクシー運転者は、半数以上が60歳以上の労働者で占められています。あまりに賃金が低いために、働き盛りの労働者は働き続けることができず、教育費等の生活費がかからなくなった年齢以上の者か、年金を受給している者しか働き続けることができない職場となってしまっているからです。いま払えないからと、最低賃金を低いままにとどめておけば、低賃金という業界構造の転換はなされず、結局は今以上に若年労働者に敬遠されてしまいます。年金受給者しか働けないような事業では、安全に責任をもち、未来を展望することもできません。

 4.逆に、最低賃金を適切に引上げていくことは、事業を活性化し、公正で健全な競争を促進することにつながります。

 タクシー業界では、供給過剰地域でのタクシーの増車・新規開業を規制するタクシー活性化法が2009年から施行され、地域ごとに協調的に減車をする枠組みができて、全国で過剰な台数を減らす動きが出ています。すでにタクシー台数は規制緩和以前の台数にまで減りましたが、これをもっと進めて、さらに大幅な減車を行えば、運転者一人当たりの生産性が上がって最低賃金法違反が発生するような異常な低賃金はなくすことができます。現に規制緩和以前は、最低賃金法違反が発生するというのはきわめて例外的な事例でした。

 自らの業界の需要と供給の関係を精査し、それに見合った生産計画を立てる(保有台数を決定する)というのは、経営者としては至極当たりまえの経営感覚です。ところがタクシー業界では、運転者の賃金が歩合給であるために、この当然の経営感覚を持たずに、競争にあおられ、目先の利益のみを求めて際限ない増車競争が続いてきました。ようやく規制を強化する法律ができて初めて、各社が増車競争にあおられずに、安心して需要に見合った台数めざして減車をすることができるようになったのです。

 最低賃金を引上げることは、後先構わぬ非計画的な競争を抑制し、労働者の低賃金に依拠して安全をないがしろにしたコスト競争ではなく、最低賃金という同じ土俵の上で、消費者利便・サービスの向上といった商品・サービスの質自体で競争することを促すことになります。

 その際、最低賃金法違反が放置されずに確実に摘発、改善がされる方策が公正な競争条件確立のために不可欠であることはいうまでもありません。

 最低賃金の引上げによって、サービス・安全性が高まるとともに、事業にも将来ある若年労働力が流入し、事業の未来がひらけるようになるはずです。

 5.東日本大震災は、タクシーにも大きな影響を与え、全国でタクシー需要も急減しましたが、5月以降回復しつつあります。震災復興のためにも景気回復は急務であり、そのためには勤労者の消費が拡大しなければなりません。最低賃金を引き上げることこそ景気回復につながる道です。そのためにも、最低賃金の大幅な引上げにつながる目安を答申していただくよう、下記のとおり要請します。

 (1) 地域別最低賃金を早期に1000円に到達させる視点で調査審議を行うこと。

 (2) 地域別最低賃金の地域間格差を是正し、少なくとも800円未満の最低賃金は速やかになくなるよう目安を答申すること。

 (3) 生活保護と最低賃金の乖離は今期で解消するような目安を答申すること。

 (4) 最低賃金の引き上げと同時に、中小企業支援策の強化、公正取引確立のための措置をとることを政府に求めること。

 (5) 最低賃金法違反を根絶するために、特別な体制をとって法の実効性を確保することを政府に求めること。

以  上


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