2012.5.9-2 |
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自交総連は5月8日、第2回中央闘争委員会(第4回常執)で、「関越道の高速ツアーバス重大事故に関する見解と要求」を確認しました。今後、省庁交渉等を予定しています。
1.4月29日午前4時40分ごろ、群馬県内の関越自動車道において、金沢発東京ディズニーリゾート(千葉県浦安市)行の夜行高速ツアーバスが道路左の防音壁に激突し、乗客7人が死亡、乗員含め39人が重軽傷を負うという重大事故が発生した。バスを運転していた43歳の運転者は5月1日に危険運転過失致死傷容疑で逮捕されたが、疲れていて居眠りをしていたと供述しているという。行程の545kmを交替運転者なしの1人で運転していた。
バスのツアーを企画したのは大阪に本社がある「ハーヴェストホールディングス」という旅行会社、バスを運行していたのは千葉県の「陸援隊」という貸切バス事業者である。
2.すでに多くの報道等でも指摘されているように、この事故の背景には、規制緩和による貸切バス事業の過当競争激化、運転者の労働条件の悪化がある。
貸切バス事業は2000年に規制緩和されて以降、99年度から09年度にかけて、事業者数は2336が4392に88%も増える一方、営業収入は5434億円が4474億円に減少している。大量の新規参入による過当競争、安売り競争が激化し、運転者には長時間で過酷な勤務と低賃金が押し付けられ、バス運転者(乗合含む)の年間賃金は538万円から386万円に28%も低下している。
さらに規制緩和以降、旅行業者が貸切バスを活用して高速道路を経由する2地点間の移動を目的とする募集企画旅行を販売する「高速ツアーバス」といわれる形態が急速に拡大した。高速ツアーバスは、道路運送法にもとづく乗合バスの規制が適用されず、安全性など様々な問題が指摘されていたものであり、今回、事故を起こしたのも、この高速ツアーバスである。
一般の貸切バスも含め、旅行を企画する旅行会社と運行を請け負う貸切バス事業者との関係では、過当競争状態にある貸切バス事業者の立場が圧倒的に弱く、公示運賃を大幅に下回る低運賃や無理な運行計画が旅行業者から押し付けられる事例が蔓延、道路運送法違反の日雇い・アルバイト運転者の雇用なども増える傾向が顕著になっていた。
今回事故を起こした陸援隊という会社は、こうした貸切バス事業の問題点をことごとく体現しているような問題事業者であることが、その後の調べで明らかになってきた。運転者は違法な日雇いで、自分の所有するバスで中国人向けバスツアーを違法な名義借りで個人営業、今回の金沢での休息期間中にも自分の所有するバスの修理手配などをしていたと報道されている。まともな運行管理や点呼もしないという非常識な無管理状態で営業し、多数の道路運送法違反があったことも明らかになっている。今回の運行は、旅行会社から別の2社を介在して受注したもので、東京−金沢往復を公示運賃の下限35万6500円(545km×2日で試算)の半額以下の15万円で受注していたといわれている。同社は、もともと「インバウンド」といわれる外国人旅行客のツアーに特化していた会社で、東日本大震災により外国人旅行客が激減する環境のなかで、生き残りのために安値をいとわない状態にあったと思われる。
3.こうした貸切バス事業をめぐる問題点は、07年2月に大阪で起きたあずみ野観光バスの過労運転・死傷事故をきっかけに社会問題となり、国土交通省が08年9月に1日の乗務距離670km以上は交替運転者を配置することとした指針を定めたのをはじめ、10年9月には総務省行政評価局が貸切バスの安全確保対策に関する行政評価・監視に基づき国土交通省等に勧告を行い、国土交通省では「バス事業のあり方検討会」を10年12月から開催、今年3月に報告をまとめたところであった。
4.自交総連は、規制緩和が強行される以前からその危険性を指摘し、過当競争が運転者の労働条件を低下させ、いずれ重大な事故がおきかねないことを再三にわたり指摘してきた。にもかかわらず、あずみ野観光バス事故に続き、再び多くの人命が奪われる重大な事故が起きたことは誠に残念であり、対策が後手となり、的確な対応となっていなかったという点で国土交通省はじめ行政当局、政府の責任はまぬがれない。
交替運転者の配置指針が1日670kmとされたことについて、自交総連は、その制定当初から、運転者の疲労の実態に合わず、500km以下とするように国土交通省に要請してきた。また、この配置指針の距離が1日の運転時間の上限を9時間とした運輸規則の規定から算出されたものであり、さらにそのもととなったのが厚生労働省告示の「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の規定であることから、厚生労働省に対しても同告示の改正を申し入れてきた。
総務省の行政評価の調査には積極的に協力して問題点の摘出に貢献した。その結果、的確な勧告がなされたにもかかわらず、それを受けた国土交通省の「バス事業のあり方検討会」での論議は、勧告で指摘された点に真剣に応えないものとなっていることが中間報告の段階で明らかになったため、昨年10月には国土交通省と同検討会に対して適切な最終報告とするよう申入れを行った。旅行会社の要求を断れず運賃ダンピングが常態化していることやインバウンドの問題点、アルバイト雇用の実態なども指摘して、改善を申し入れた。しかし、この要請の趣旨は生かされず、不十分な最終報告が今年3月に出された矢先に、今回の重大事故が発生したのである。
バス事業のあり方検討会報告の問題点は別添のとおりであるが、高速乗合バスと高速ツアーバスを一体化して新たな高速乗合バス規制に移行するというものの、具体策は未定が多く、乗合バスに関しては従来より規制が緩和されるものである。さらに、貸切バス事業者に無理な運行と低運賃を押し付けている旅行業者への指導・監督の強化は骨抜きとされ、運賃適正化は先送りされている。
5.交通機関にあって安全を担保するのは、直接、運転に携わっている運転労働者である。この労働者の労働条件を改善して、安全運転で生活できる賃金・労働時間を保障しない限り、真の安全は確保できない。
政府は、この間の交通運輸事業の規制緩和政策を真しに検証し、必要な規制の強化をはかるべきである。
国土交通省・観光庁・厚生労働省に対して、早急に以下の点の改善を求めるものである。
(1) 届出運賃(公示運賃)違反の是正措置を講じること。
また、法違反の日雇い・アルバイト運転者を一掃するため、監督・指導の強化をはかること。
(2) 低運賃や無理な運行(旅行行程自体が改善基準の拘束時間をオーバーしているもの等)を押し付ける旅行業者への監督・指導を強化し、罰則規定を創設すること。
(3) 高速ツアーバスの監査を強化し、高速乗合バス規制の緩和は行わないこと。
(4) 交替運転者の配置基準は1日500km以下とすること。
(5) 深夜運行は、運転者2人制(ツーマン化)とすること。
(6) 「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」を法制化すること。
当面して、@拘束時間1日13時間以内、A休息期間11時間以上、B運転時間1日7時間以内、C連続運転時間2時間以内とするなどの改善を早急に行うこと。
検討会の最終報告 | 総務省勧告(2010.9.10) | 問題点 |
【高速バス分野】 ○高速乗合バスと高速ツアーバス(現在は貸切バスを使用)を一本化して新たな高速乗合バス規制を導入 高速乗合バスの「柔軟な」新規制の導入と高速ツアーバスの新たな高速乗合バスへの移行(2012-13年度集中移行期間) |
(ツアーバスの安全確保対策の推進、法令遵守の徹底) | 新たな高速乗合バス規制は、停留所の確保以外は具体策が未定。一本化により、高速乗合バスの車両・運賃規制は逆に緩和される |
【貸切バス分野】 ○法令遵守体制の確保 ・事業許可時の役員の法令試験の厳格化 ・運行管理者・整備管理者制度の見直し ・事後チェックの強化 監査要員の確保、監査件数の確保、処分基準の強化、悪質かつ重大事案は刑事告発 |
○貸切バス事業の安全確保 ・新規許可時の監査を漏れなく早期に実施 ・法令等遵守の徹底 ・違反の抑止力強化のため車停基準策定、公表、告発、金銭的制裁の検討 ○監査の効果的実施、事故時の監査徹底 |
厳格化や強化と書かれているが、その中身は具体性がない |
○発注者と貸切バス事業者の相互理解の促進 ・貸切バス事業者安全性評価認定制度の普及・促進 ・「貸切バス利用ガイドライン」の作成周知(安全性の高い貸切バス事業者が選択されることを促進) ・関係業界協議会の創設 |
○旅行業者への指導・監督の強化 ・旅行業者へ法令遵守への協力の徹底 ・法令違反に旅行業者の関与が疑われる場合は観光庁への通報を徹底する ・事故報告書への契約相手方名の記載、旅行計画資料の添付 |
「旅行業者」が「発注者」に、「指導・監督の強化」が「相互理解の促進」になり、旅行業者への規制強化は、当事者まかせで骨抜き |
○運賃・料金制度のさらなる検討 ・ワーキンググループを設置し、平成24年度中に合理的で実効性のある新たな貸切バス運賃・料金制度案をとりまとめるべく、さらに検討を深めていく |
○運賃の実態把握と公示運賃の検証 ・旅行業者による手数料の徴収状況を含め実態把握 ・適正な公示運賃設定 ・運賃の法違反に関与した旅行業者に対する指導を求める仕組みづくり |
運賃問題は、旅行業者への指導も含め、すべて先送り |
(言及なし) | ○交替運転者の配置基準を、乗務距離が運転者に与える生理学的影響を踏まえたものに改定すること | 交替運転者の配置基準の改善には触れられていない |
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