2 有給休暇は時季を指定すれば成立します

 【問い】 わが社では、有給休暇は1日1人までと決められています。また、有休をとると給料がすごく減ってしまいます。これっておかしくありませんか?

 【答え】 有休取得を使用者が拒否することは許されません。

 年次有給休暇は労働者が健康で文化的な生活をするために不可欠な権利です。欧米先進国では有休を取れないというのは到底考えられません。賃金が下がることなく、完全消化するのが労基法の趣旨に沿った本来のあり方です。
 有休の最低限の付与日数は、勤続6か月で10日、以後1年経過ごとに1〜2日増え、6年半以上では20日となります。
 有休は法律上当然の権利であって、使用者の承認いかんでもらえたり、もらえなかったりするものではありません。
 労働省の通達でも「(有休の)『請求』とは休暇の時季を指定するという趣旨であって…使用者が時季変更権の行使をしない限り、その指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅する」(昭和48.3.6基発第110号)とされています。

 タクシーで変更権はありえない 

 労働者が有休の指定をしたのに対し、使用者が拒否することは許されず、時季変更権で別の日に変更させることだけが可能です。この変更権の行使は「事業の正常な運営を妨げる場合」に限定されていて、例えば、その人がいなければ全体の作業が停止してしまうような事態を想定したものです。
 タクシーの場合、一人が休んでも他の車の運行には影響がなく、代替要員を確保するのも容易ですから(当然、有休取得を前提に乗務員を確保しておかなけらばならない)、原則として有休の指定が妨げられる場合はありえません。
 この点では北海道地連鈴蘭労組が89年に重要な判決をかちとっています。

 時季変更権を限定した判例

 「事業の正常な運営を妨げる」か否かは、企業の規模、有給休暇請求者の職場における配置、その担当する職務の内容、性質、繁閑、代行者の配置の難易、時季を同じくして有給休暇を請求するものの人数等を総合して判断すべきものと解されるところ、債権者の従事するタクシー運転業務は一般に容易に代替性の認められる職種であって、代行者の確保にはさほど困難をきたすものではない。
(89.7.24 札幌地裁昭和63年(ヨ)第839号地位保全仮処分決定事件)

 賃金が払われてこそ「有給」休暇 

 歩合給が主体となるタクシーの場合、有休取得時の賃金保障の仕方が問題となります。労基法では次の3つの方法が決められています。
 @平均賃金=前3か月の賃金総額÷総日数
 A通常の賃金=固定給はカットせずそのまま支払う。歩合給は、当月の歩合給総額÷総労働時間数×1日の所定時間数
 B健保日額
 しかし、有休を取ったため足切りにいかなかったり、累進歩合の場合、この3方式で計算しても、大幅に賃金が下がる場合があります。
 労基法136条は「使用者は…有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない」と定めており、賃金低下は同条違反となります。
 そのため、有休を取った日に平均的な営収を揚げたものとみなして賃金計算をする(足切り減額も含む)仮想営収方式で計算することが、本来の法の趣旨にかなう方法で、経営者団体の全乗連の解説でも「望ましい方法」(『全乗連ナウ』353号)とされています。




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